09.熱を囲む名
地面に頭を打ちつけて目が覚めた。
いつの間にか限界が来て眠ってしまっていたのだ。
急いで2人の様子を確認すると、驚いた事にどちらも目を開けていた。
そして、頭をぶつけて焦っている瞬間もしっかりと見られていた。
口角を上げて目を細めており、笑われていると理解する。
普段ならば小突いて文句を垂れている所だが、流石に重傷者に同じ事はできない。
恥で身体が熱くなり変な汗が背中を流れるが、そんな事より改めて2人の容体を確かめなくてはならない。
ズリズリと音を立てながら身体を起こそうとしている所を支え、木にもたれる。
ここでやっと会話をする事が叶った。
力は弱いものの、確かに意思疎通ができた喜びを噛み締める。
「すまない、俺たちを助けてくれて本当にありがとう…」
「俺は何もしてない。
目を覚ましてくれてよかった。
生きてくれてよかったよ。」
「僕たちはニールに救われたんだ。
本来ならあのまま命の火なんて消えてた筈なんだから。」
不意に名前を呼ばれて驚く。
自分でも直視したくないと思うほどの顔を見て、すぐに俺がニールだと分かるなんて…
思わず自分の顔を撫でる。
しっかりと自分の体重を支えられないものの、木にもたれて会話ができている事が喜ばしい。
消えかけの焚き火を絶やさないよう気をつけながら話しを続けていく。
しかし、嬉しさに胸がいっぱいでもお腹はいっぱいにならない。
次第に腹が減って意識が逸れてしまう。
食事の余裕もなく介抱して眠ってしまったのだから当たり前か…
鹿肉の残りはまだあるが、これを3人で分ければかなり物足りなくなるだろう。
だが、全員で生きるためには助け合う事が絶対だ。
しかし、意識が戻ったばかりの2人に肉を食べる力はあるのだろうかと心配に思う。
何か他に非常食でも持っていないだろうかと、了承を得て荷物や服のポケット内を探す。
出てきたのは無地で裏表紙に名前が書かれた日記と思われるノートとナイフ、そして食べられる物は干し肉しか出てこなかった。
肉か…そう思い、量は少ないもののこれからのために袋へ戻す。
鹿肉を焼き直しながら、どう2人に食べさせたらいいのか考え、ナイフで細かく刻む事にした。
刻んだ肉を口に運び入れるが、飲み込む事ができていない。
申し訳なさそうに一言謝り、拾った葉の中に吐き出してしまう。
やはり、この状態で肉など受け付けないのだろう。
1人だけ食べる事に罪悪感を感じるも、自分が体力を付けなくては2人を助けられないと考えて平らげる。
食事を終え、そうだとある事を思い出した。
持ち物を見た時に発見した日記のことだ。
見られるのは恥ずかしいが、見るのは心が躍る。
それは誰しも共通だろう。
拒みつつも、しっかりと日記を取り出して手に持ち、ゆらゆらと揺らして見せる2人に笑ってしまう。
覗いて見ると、日々のちょっとした事や訓練の内容が書かれていた。
真面目だな…と思い次のページを捲ると、同僚との飲み会で酔いすぎて失敗した事まで綴られていて、クスッと笑えてしまう。
日記に顔を向けたまま静かに耐えていたが、笑っていた事がバレてしまった。
「人の日記を見て笑うなんて失礼じゃないか」
「いや…つい…自分の失敗談まで書いてるジェムが面白くて…」
「ははは、逆だよ
それはヴァロンだね」
日記をクルッと返すと、ヴァロンと書かれていた。
逆に次は自分が笑われてしまう。
しかし、そんな笑い合える暖かい空気感がとても心地良い。
こんな状態ではなく、椅子にでもだらりと腰掛けながらできたらと、少し切なさも感じた。
何があっても全員生きなければと何度も思う。
思うたびに決意は熱く固くなって行く。




