第7章 『再出発 ― 英雄たち、再び歩き出す』
夜が明けた。
王都の空は高く、澄んでいた。
朝靄の中で鐘が鳴る。遠くから鳥の声が重なり、街がゆっくりと目を覚ましていく。
勇者マダマ・エルは王城の門前に立っていた。
冷たい石畳の感触が、まるで旅の始まりを告げているかのようだ。
風が吹き抜け、マントの端がはためく。
「……よし。」
短く呟くと、彼は振り返った。
そこには、いつもの顔ぶれがいた。
オレガ・マモルは鎧の留め具を確かめ、静かに頷いた。
イノリ・セントライトは両手を組み、短く祈りを捧げる。
オモイ・ツカナイは魔法書を閉じながら軽く肩をすくめた。
キルス・ライムは背中の剣を整え、少し照れたように笑った。
> ナレーション:
> 「彼らは何も言わなかった。
> それでも、この数日で交わした言葉が、確かにそこにあった。」
⸻
王都の大通り。
まだ人通りの少ない朝の道を、一行は並んで歩く。
石畳に響く足音が、五つのリズムを刻んでいた。
「……不思議だな。」マダマが言った。
「何が?」イノリが首を傾げる。
「この道、最初に通った時より狭く感じる。」
「それはあなたが成長したからですよ。」イノリが笑う。
オレガ:「いや、たぶん装備が増えただけだ。」
オモイ:「鎧の幅が広がっただけね。」
キルス:「俺もベルトの穴、一個広がった。」
マダマ:「……成長ってそういう意味じゃねぇ!」
> ナレーション:
> 「旅の前の軽口。
> 緊張を隠すためでもあり、絆の証でもある。」
⸻
街の門が見えてきた。
城下町を出る時、門兵たちが整列して敬礼した。
「勇者殿、次こそ魔王を!」
マダマは軽く手を上げて応えた。
「そういえば。」オモイが呟く。
「陛下、最後に“必ず戻れ”って言ってたわね。」
「……あの人、信じてくれてるんだな。」
「いや、たぶん心配の方が勝ってるわ。」
「言葉にトゲがある!」キルスが笑う。
イノリ:「でも、そう言われるのは幸せなことです。」
その言葉に、全員が少しだけ歩調を緩めた。
風が彼らの背を押すように吹き抜けていく。
⸻
丘を越えた先、遠くに見える黒い影。
それが、魔王城だった。
かつては伝説の中の存在だったものが、今は“行くべき場所”になっていた。
マダマ:「……もう、迷う理由はないな。」
オレガ:「ああ。やるしかない。」
イノリ:「神よ、どうか導きを。」
オモイ:「次は奇跡じゃなくて、計画で勝ちたいわね。」
キルス:「俺、今回は真面目に行く。」
マダマ:「毎回そう言うやつに限って、真っ先に転ぶんだよ。」
> ナレーション:
> 「笑いながら、彼らは歩き出した。
> その背に、朝日が差し込む。
> 誰も知らない――この光が、最後の陽光になることを。」




