第3章 『選ばれた仲間たち ― カンと信頼と王様と ―』
王都エルダリア――
白い城壁の向こうに、巨大な城がそびえ立っていた。
村の少年少女が足を踏み入れるには、あまりにも眩しすぎる世界。
「なぁマダマ、本当に呼ばれてるんだよな?」
「うん、王直々に。“新たな勇者”として、だってさ。」
「……すげぇけど、夢みたいだな。」
イノリが微笑む。「大丈夫、ちゃんと挨拶しようね。」
神殿で加護を授かってから三日。
三人は王都へと招かれ、王に謁見するために城へ入っていた。
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広間の扉が重々しく開く。
玉座の上、威厳ある老人――エルダリア王が三人を見下ろしていた。
「……これが、神に選ばれし勇者か。」
緊張するマダマ。
「は、はいっ! マダマと申します!」
王は立ち上がり、杖を突いて歩み寄る。
その手には、封印された銀の剣が携えられていた。
「勇者マダマよ。この剣――《聖銀の刃》を授ける。」
「えっ、もう!? 会ってすぐ!? 履歴書とか確認しなくていいんですか!?」
思わずツッコミを入れるキルス。
イノリが焦って小声で肘をつつく。
「やめなさいってば!」
王は少し眉を上げて、
「……ふざけるでない。勇者の剣授与の場ぞ。」
と叱責した後、口元に笑みを浮かべた。
「だが、緊張を解くには良い冗談だな。続けよ。」
(怒ったかと思ったら笑った!?)
空気が少しだけ和らぐ。
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王は続けた。
「勇者マダマ。お前に使命を授ける。魔王を討ち、この世界を救うのだ。」
「はっ……ですが、謹んでお断りします!」
「……なんだと?」
広間が凍りつく。
王の眉がピクリと動いた。
マダマは慌てて両手を振る。
「い、いや、えっと! 正確には“今すぐには”です!
仲間を選ぶまでは受けられません!」
王:「ふざけるでない。」
マダマ:「ふざけてません!」
王:「ふざけてないのに紛らわしいことを言うでない。」
マダマ:「はいすみません!」
その様子に、謁見の間の騎士たちがざわつく。
「……勇者、ちょっと変わってるな」
「王に真っ向ツッコミ入れる勇者、初めて見た……」
> ナレーション:
> 「この瞬間、王国史に残る“最も賑やかな謁見”が生まれた。
> この勇者、ただ者ではない。いや、ただ者どころか常識がない。」
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王は咳払いをして続けた。
「よかろう。ならば、仲間を選べ。信頼できる者を連れていけ。」
マダマは即答した。
「この二人です。」
指差したのは――イノリとキルス。
「幼なじみで、信じられる仲間です。俺のカンがこいつらを連れていけって言ってます。」
王:「……しかし、そこの少年は“スライムハンターEX”ではないか?」
広間にくすくす笑いが広がる。
「EXだぞEX!」「伝説のスライム掃除人だ!」
「村の安全は保証されるな!」
イノリが怒る。
「陛下! キルスは真面目で努力家なんです!」
王:「……ふむ、努力家、か。それは必要な資質かもしれぬ。」
キルスは小声で呟く。
「(なんか“努力”ってフォローされるたびに弱そうに聞こえるんだよな……)」
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マダマは続けた。
「あと二人も……カンで決めます!」
王:「……カン?」
マダマ:「はい。なんとなく、そこの二人が良さそうで!」
「おいおい勇者、命がけの旅だぞ?」
キルスが突っ込みを入れるが、マダマは本気だった。
マダマが選んだのは――
大柄な鎧の男と、黒衣の魔法使いの女。
「名を名乗れ。」
「オレガ。昔は王都騎士団長だったが、今はただの傭兵だ。」
「オモイ。気分次第で動くけど、戦闘は得意よ。」
> ナレーション:
> 「こうして、勇者の“カン”で選ばれた二人――。
> 実はこの二人、後に国の歴史を動かす存在となる。
> ……が、今この時点ではただの“勢い採用”である。」
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王はため息をついた。
「……良かろう。勇者マダマ、その自由な判断力、見せてもらおう。」
「ありがとうございます!」
王が剣を掲げる。
「この《聖銀の刃》を持って行け。勇者の証だ。」
マダマは深く頭を下げ、剣を受け取る。
その隣で、キルスが小声で呟いた。
「(今度こそ本物の“授与”シーンだな)」
イノリが笑いをこらえ、肘で突く。
「もう、あんたって子は……」
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> ナレーション:
> 「こうして、奇跡のパーティが誕生した。
> 勇者、僧侶、スライムハンターEX、傭兵、そして気分屋魔法使い。
> ――平均年齢バラバラ、信頼度まちまち、やる気未知数。
> 果たして本当に魔王を倒せるのか?
> ※作者もこの時点では不明である。」




