エピローグ『最強の凡人』
──あれから、六十年が経った。
世界は穏やかだった。
魔王が消えてからというもの、
大陸を覆っていた黒い瘴気はすべて晴れ、
人々は“平和”という言葉の意味をようやく思い出した。
王都は緑で満たされ、
村々には笑い声が響き、
剣を取る者より、鍬を取る者のほうが多くなった。
その村の中央――。
白い石で造られた“英雄像”が立っていた。
剣を持った青年の姿。
しかし、どこか穏やかで、
勇者というよりも、ただの村人のような顔をしていた。
⸻
昼下がりの広場。
ベンチに腰を下ろした老勇者、マダマ・エルは、
孫に手を引かれながら空を見上げていた。
「ねぇおじいちゃん!」
小さな少年が像を指差す。
「おじいちゃんって、あの“魔王を倒した勇者”なんでしょ!?」
マダマは目を細め、笑う。
「まぁ……昔はな。」
「じゃあ、なんで村の真ん中に立ってる像、
おじいちゃんじゃないの?」
老勇者は少し黙り、
そしてゆっくり立ち上がった。
「……あれはな、ワシらの“勇者”なんじゃ。」
少年が首をかしげる。
「え?勇者はおじいちゃんでしょ?」
マダマは空を見上げ、
遠い昔を思い出すように言葉を続けた。
「あいつは、ワシより強くなかった。
頭も良くねぇし、剣も下手だった。」
風が吹き抜ける。
その音は、まるで笑い声のように優しかった。
⸻
少年は像の台座に刻まれた文字を読む。
“スライムハンターEX キルス・ライム”
「ねぇおじいちゃん!
“スライムハンターEX”って、どんなスキルなの?」
マダマは少し笑って、
まるで懐かしい友の名を呼ぶように呟いた。
「――あれはな、
“最強の凡人”を指す称号さ。」
少年の目が丸くなる。
「……凡人が、最強?」
「そうだ。
誰よりも地味で、
誰よりも人間らしくて、
それでも世界を救った、
本当の勇者の名だ。」
⸻
空には青が広がり、
遠くで鐘の音が響く。
老勇者は孫の頭を軽く撫で、
穏やかに笑った。
「さ、帰ろう。夕飯、冷めちまう。」
「うん!」
二人の影が並んで伸びる。
その先には――
スライムハンターの像が、
どこまでも優しい笑顔で立っていた。
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ナレーション:
> 「勇者の名は記録に残る。
> だが、“仲間”の想いは人の中で生き続ける。
> ――いつの時代も、
> 最強の凡人は、誰かの心にいる。」
ここまで読んでくださりありがとうございました!
最弱の加護《スライムハンターEX》を、最後まで見届けてくれたあなたに心から感謝を。
この物語が、あなたの中の「凡人の勇気」を少しでも照らせますように。
──完──




