第11章 『壊滅の前夜 ― 世界を賭けた一歩 ―』
イノリが息を呑み、杖を握りしめる。
「――来ます!」
黒い波動が爆ぜた。
闇が空間をねじり、床の文様が焼け落ちる。
次の瞬間、巨大な衝撃波が襲った。
オレガが盾を構え、マダマが剣で受け流す。
オモイの魔法陣が光を放ち、イノリの祈りが防壁を展開する。
だが――すぐに限界が来た。
地面が陥没し、柱が崩れ落ちる。
全員が散開しながら必死に立て直す。
「化け物め……これが、魔王の力か!」
キルスが歯を食いしばる。
マダマは額の血を拭いながら息を荒げる。
「くっ……こいつ……これが、本当に魔王なのか……!」
⸻
勇者マダマが剣を構えながら後ずさる。
彼の鎧は砕け、息も荒い。
その前方で、タンクのオレガが盾を構えて吠える。
「下がれ勇者! 前は俺が持つ!」
全身を覆う鋼鉄の盾に、黒い波動が叩きつけられた。
空気が裂ける音とともに、オレガの巨体が弾き飛ばされる。
「オレガさんっ!」
イノリが駆け寄る――その瞬間、魔王の影が伸びた。
空気を裂いて飛んだ黒い刃が、彼女の胸を貫く。
イノリの瞳が驚愕のまま見開かれ、光が消える。
「――イノリ!!」
勇者の叫びが響く。
「――リアナ!!」
勇者の叫びが響く。
魔法使いのオモイが震える指で詠唱を再開する。
「《ファイア・バースト》!」
紅蓮の爆炎が魔王を包む――だが、まるで意味がない。
炎の中から、ぬるりと黒い腕が伸び、彼女の腹を打ち抜いた。
「がっ――!」
オモイの体が吹き飛び、壁に叩きつけられる。杖が折れ、魔法陣がかき消える。
「……勇者……逃げろ……」
タンクのオレガが、倒れたままの声でかすれた忠告を残す。
彼の盾は割れ、腕は血に濡れていた。
⸻
音もなく腕を掲げる。
その掌に、闇の奔流が凝縮していく。
空気が震え、神殿全体の温度が一気に下がった。
――次の瞬間、放たれた。
空を裂く黒光。
直線状の闇が、勇者マダマめがけて一直線に走る。
逃げる暇はない。避けられない速さ。
「――マダマ――――ッ!!!」
声が響いた。
光と闇の間に、ひとりの影が飛び込む。
キルスだった。
剣を横に構え、全身でその一撃を受け止めた。
衝撃で地面が割れ、石片が宙を舞う。
魔力の奔流が肌を焼き、骨を砕く。
「……ぐ、ぅおおおおおッ!!」
体が吹き飛ばされる。それでも剣を離さない。
勇者の目の前で、キルスは崩れ落ちながらも盾のように立ちはだかっていた。
「な、なんで……なんでお前がっ!」
マダマの声が震える。
キルスは、血を吐きながら笑った。
「俺がやらなきゃ……先に死んだみんなに、顔向けできねぇだろ……」
その言葉の直後、再び光が爆ぜた。
衝撃がすべてを飲み込み、勇者は吹き飛ばされる。
視界の端で、キルスの身体が倒れていくのが見えた。
勇者が叫ぶ――
「キルス――――ッ!!!」
その叫びが、暗闇に飲まれキルスは一瞬の間気絶した。




