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スライムしか倒せないのに、勇者パーティーに入れられた件  作者: だからとむー?


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第1章 『壊滅の前夜 』

 ――神殿が崩れていた。

 壁は裂け、床は溶け、天井から絶え間なく石片が降り注ぐ。

 空気は焦げた金属と血の臭いで満ちていた。


 ここは、魔王城の最奥。

 五人の仲間が立ち向かっていたが――もはや“戦い”と呼べる状況ではなかった。



 「くっ……こいつ……これが、本当に魔王なのか……!」

 勇者マダマが剣を構えながら後ずさる。

 彼の鎧は砕け、息も荒い。


 その前方で、タンクのオレガが盾を構えて吠える。

 「下がれ勇者! 前は俺が持つ!」

 全身を覆う鋼鉄の盾に、黒い波動が叩きつけられた。

 空気が裂ける音とともに、オレガの巨体が弾き飛ばされる。


 「オレガさんっ!」

 僧侶のリアナが駆け寄る――その瞬間、魔王の影が伸びた。

 空気を裂いて飛んだ黒い刃が、彼女の胸を貫く。


 イノリの瞳が驚愕のまま見開かれ、光が消える。

 「――リアナ!!」

 勇者の叫びが響く。


 魔法使いのオモイが震える指で詠唱を再開する。

 「《ファイア・バースト》!」

 紅蓮の爆炎が魔王を包む――だが、まるで意味がない。

 炎の中から、ぬるりと黒い腕が伸び、彼女の腹を打ち抜いた。


 「がっ――!」

 オモイの体が吹き飛び、壁に叩きつけられる。杖が折れ、魔法陣がかき消える。


 「……勇者……逃げろ……」

 タンクのオレガが、倒れたままの声でかすれた忠告を残す。

 彼の盾は割れ、腕は血に濡れていた。



 そして――神殿の奥で“それ”が動いた。

 魔王。

 形は人に似ているが、肌は透き通る黒。輪郭は揺らぎ、身体の内部で液体のようなものが流れている。

 顔のあるべき場所は、闇に飲まれていた。


 音もなく腕を掲げる。

 その掌に、闇の奔流が凝縮していく。

 空気が震え、神殿全体の温度が一気に下がった。


 ――次の瞬間、放たれた。


 空を裂く黒光。

 直線状の闇が、勇者マダマめがけて一直線に走る。

 逃げる暇はない。避けられない速さ。


 「――マダマ――――ッ!!!」

 声が響いた。


 光と闇の間に、ひとりの影が飛び込む。

 キルスだった。


 剣を横に構え、全身でその一撃を受け止めた。

 衝撃で地面が割れ、石片が宙を舞う。

 魔力の奔流が肌を焼き、骨を砕く。


 「……ぐ、ぅおおおおおッ!!」

 体が吹き飛ばされる。それでも剣を離さない。

 勇者の目の前で、キルスは崩れ落ちながらも盾のように立ちはだかっていた。


 「な、なんで……なんでお前がっ!」

 マダマの声が震える。


 キルスは、血を吐きながら笑った。

 「俺がやらなきゃ……先に死んだみんなに、顔向けできねぇだろ……」


 その言葉の直後、再び光が爆ぜた。

 衝撃がすべてを飲み込み、勇者は吹き飛ばされる。


 視界の端で、キルスの身体が倒れていくのが見えた。

 勇者が叫ぶ――


 「キルス――――ッ!!!」


 その叫びが、暗闇に飲まれた瞬間。


 キルスの意識は遠のき、記憶の底から光景が浮かび上がる。

 ――15歳のあの日。

 神殿で加護を授かった、始まりの朝。


 全ては、あの日から始まっていた。


 回想――

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