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重苦しい空気の中、ぐっと握られたウォルターの拳が白くなっていく。後悔の海に沈みそうな瞳には確かに炎が宿っている。不思議だな、と率直に思う。
審査対象――ソフィア・ドライブラを調査したときは両親から溺愛されているのがよくわかった。領民からも慕われていたが、それは後継であるウォルターにとっては面白くないこともよくわかる。けれども、それとは違う別の感情があるようにも思えた。
「お前は理不尽だと思わないのか?」
青い瞳がリンを真っ直ぐ見る。リンは数度目を瞬かせると、なんてことのないように口にした。
「そう思ってたんです。でも、理解できないのでそれでもいいかなって」
「……どういう意味だ?」
「確かに、私がいなければソフィアさんの周りは平和です。でも、天秤様はこれから起こる未来のために"駒"として私が必要だと言いました」
「だから、救ってくれた人のために頑張ることにしたんです。そのために、理解できなくてもそういうものだって納得することにしました」
お母さんとも約束しました、と彼女は静かに胸を張る。その姿に、不意に光女神様とお会いした時のことが蘇る。
『ネム。人は神たちの糧であり、見守る存在だよ』
『そういうものだと見守り、本当に駄目なことなら罰を与え、受け入れる』
『全てを救うなんてのは、傲慢だよ』
ああ、やはり彼女は。彼女こそは。
光女神様の――。
「無論、ネムも君たちも駒だけどねえ?」
「わぶっ!?」
いつのまにか来ていた罰様がぐしゃぐしゃとリンの頭を撫でる。その顔はどこか嬉しそうだった。
「お戻りになられたのですね。」
「話が早くて助かったよ。あ、君らがフィンドレーとウォルターだね。うんうん、君らのことは闇男神様がよろしくって言ってたからこの私が守ってあげよう」
わーっはっは、と高笑いしながら罰様はファンドレーとウォルターの頭をぐしゃぐしゃにする。お召し物がいつもの黒い軍服ではなく、儀礼用の白い軍服になっている辺り、相当良い話ができたのだろう。
「天秤様、ご機嫌ですね!お洋服も素敵です!」
「お、わかる?ウチの弟と4番目の姉上が散々やり合いながら作り上げた傑作だよ」
「赤色が天秤様のお色ですか?目の色と一緒ですごく映えますね!」
「は〜〜〜〜褒め上手の良い子〜〜〜〜」
わしゃわしゃと更にリンが撫でられる。ただでさえ高いリンへの好感度がすでに我が子レベルになったのか、何やらとても甘い。
罰様が着るのは基本的に黒だが、本来の色は光女神様の色とされている白と金だ。そこに識別のための赤が加わっている。したがって罰様の儀礼用など格式の高いお衣装は皆白をベースとし、金で刺繍、差し色として赤が使用されている。ちなみに赦様は青だ。
反対に、闇男神様の色は黒と銀とされている。ここにいるフィンドレーは髪が灰色で、目の色が黒。ウォルターは髪が黒色で、目の色が青。双方、どちらかに闇男神様の色を持っている。……二人にとっては良い意味で闇男神様に目をつけられているとしか思えない。
「……天秤様は、本当は随分と親しみやすいお方なのですね?」
「この場で一番信仰心ある子が親しみやすいと思ってくれてるからそうなだけ。あ、そうだ」
「リン、今日からエディスと一緒に王家預かりになるから勉強漬けね」
「……え?」
「ネムも一緒ですから、頑張りましょうね」
一瞬の静寂ののち、嘘だーっとリンが叫ぶ。それを見て罰様とフィンドレーが大成功と言わんばかりに大笑いし、ウォルターだけが頭を抱えていた。
裁きの天秤:訳あってテンション高め、おもれ〜!
エディス:天秤様から聞いてた。裏で色々やってる
リン・ネム:次回!令嬢教育詰め込み!!
フィンドレー:大爆笑
ウォルター:事前に話を聞いた時、マジで頭を抱えた




