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時折夢を見る。真っ白な場所に、金色の女性が座っている夢を。
金色の女性は私に気づくと、おいでおいでって手招きをして――いつも、そこで目が覚める。
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罰様は、「審査対象よりも偉くなる手がある」と言っていた。王族はマトモだと言っていたから、その縁者に頼るものだと思っていた。同じ公爵家辺りなら対抗馬に十分なれると。だが現実は非情であり、より容赦なく確実に審査対象を潰しにかかる手段が取られた。
「はい、二人とも。陛下たちと天秤様の話が終わるまで茶でも飲んで待っていよう」
「ああああの、お、王子様、ですよね……?」
「うん。色々狙われてしまうから茶を自分で入れるのが趣味になった王子だよ」
「自分で言うことか?」
「自分で料理するようになった君には言われたくないな」
どうぞ、と目の前にティーカップが置かれる。琥珀色の液体が入ったそれは彼が言う通り毒など入っていない、ただの紅茶だ。そっと差し出されたクッキーもまた普通の味だ。……紅茶は少し渋くてクッキーは端の方が焦げているが。リンの方を横目で見れば、プルプルと震えながらも紅茶に口をつけている。味など感じる暇もないだろう。
目の前にいるのはこの国の第二王子であるフィンドレーと、公爵家嫡男ウォルター・ドライブラ。ウォルターの方は散々資料で顔を見ていたので何も思わないが、フィンドレーの方は何か引っかかる。どこかで見たような顔立ちに、灰色の髪に黒い目。そして不自然なほどの気迫の無さ。王子というには地味であるがただのヒトというには異質な彼をじっと見る。事前情報がまるでないのだ。
「僕がここにいるのが意外かい?」
「ええ、まあ。」
「簡単だよ、僕はドライブラ公爵令嬢に狙われててね。彼女が苦手なウォルターを側に置いて逃げているんだ」
そんな情報は聞いていない。だが思い返してみればあの審査対象は随分と距離をとっていたかのように思える。まるで危害を加えられるのを恐れるような、自分の命を守るためのような。
「アレが勝手に後継になると思い込んでいるからな。俺はさぞかし邪魔なんだろう」
「僕を婿にして公爵家継ぐなんて無理なのにねー。ね、君。紅茶美味しい?」
「あ、お、おいしいです!」
「本当? 僕好みの淹れ方だから口にあってよかった」
だからウォルターは口をつけていないのか。リンは咄嗟に言っただけであり、現に豪奢な皿に乗せられたクッキーはもうほとんどない。おおかた緊張のあまり話についていけず、リスのように食べていたのだろう。
「一応天秤様から名前は聞いてるけど、君たちの口から聞きたいな」
「り、リン・ブラウンです! お会いできて光栄です!」
「ネムにございます。両天秤様の部下をやっております。」
「うんうん、二人ともいい名前だね! 僕はヴァンプ王国第二王子、フィンドレー。気軽にフィンでいいよ」
「……ウォルター・ドライブラ。好きに呼べ」
この王子、第二王子とはいえ軽くないだろうか。そんな感想を抱きながら他愛のない話が進む。城の庭園にある薔薇が綺麗だとか、財務大臣は年々心労で頭髪が寂しくなっていくだとか、城には秘密の通路があるだのどんどん話が進んでいく。そこでリンがふと思い出したように疑問を口にした。
「あの、古い絵本に吸血鬼は太陽の光が苦手ってあったんですけど……みんな、普通に出歩けますよね?」
「闇男神様のご加護によるものだな。『光なくば闇うまれず、闇なくば光うまれず』と古文書にも書かれている」
「所謂相互関係だねえ。ただお互いに強すぎて打ち消し合うらしいよ。そのあたりは……ネムさんの方が詳しいかな?」
チラリとこちらを見るフィンドレーに頷いて返す。この辺りは確かに私の方が詳しい。
「かつて光女神様と闇男神様は同一の存在でした。」
「えっ」
「とはいえ、お二方もいつ別れたのか全く覚えてないそうなので。……それ故に、同じように信仰されるのが正しい形ですね。」
「前まではちゃんとしてたんだけどね」
「……それもこれもアレのせいだ」
空気が、重くなった。
ちなみにリンのお皿には追加でクッキー(王家厨房製)が入ってます。リスのようです。




