パート8: 奇妙な同行
気絶していた男たちも意識を取り戻し始めていたが、関節を極められたり、急所を打たれたりしたダメージは大きく、まともに動ける状態ではなかった。念のため、武器も近くの沼に沈めておく。
「さて、と」
一通りの処置を終え、俺はリリアーナに向き直った。
「俺は行く。お前もさっさと行け。別の追手が来ないとも限らん」
さっさと別れて、一人で情報収集をした方が効率がいい。貴族のお嬢様と一緒では、足手まといになるだけだ。
しかし、リリアーナは不安そうな顔で俺を見上げた。
「あ、あの…! フローネ様は、どちらへ…?」
「…さあな。とりあえず、人里を探す」
「でしたら…! 私も、近くの村を目指しているのです! リルカ村というのですが…ご存知ありませんか?」
リリアーナは期待を込めた目で俺を見る。
(リルカ村…? 知るわけないだろ)
俺はこの世界の地理など全く知らない。だが、目的地があるなら、そこへ向かうのが手っ取り早いだろう。一人で森を彷徨うよりはマシかもしれない。
「…知らないな。だが、村があるなら、そこへ行くのが一番だろう」
俺は少し考えてから言った。
「…案内できるのか?」
「は、はい! 多分…あちらの方角だと…」
リリアーナは自信なさげに森の一角を指差した。
(…怪しいな。こいつも森で迷っていた口か?)
だが、他にアテもない。
「……はぁ」
俺は深くため息をついた。
「…仕方ない。一時的に、一緒に行ってやる」
「ほ、本当ですか!?」
リリアーナの顔がぱっと明るくなる。
「勘違いするな。あんたが心配だからじゃない。俺も人里に行きたいだけだ。足手まといになるなよ」
俺は釘を刺すように言う。
「は、はい! ありがとうございます、フローネ様!」
リリアーナは満面の笑みで頷いた。
その笑顔は、森の中には不釣り合いなほど眩しかった。
(…面倒なことになったのは確かだが…まあ、いいか)
こうして、銀髪の元総合格闘家(♂)の俺と、金髪の訳あり貴族令嬢(♀)の、奇妙な旅が始まった。
この先に何が待ち受けているのか、今の俺には知る由もなかった。ただ、退屈はしなさそうだ、という予感だけがあった。
俺たちは、拘束された男たちを残し、リリアーナが指し示した方角へと、再び歩き出した。