パート6: 屈服の関節技
「ふ、ふざけるな! たかが小娘一人に!」
リーダー格の男が虚勢を張るように叫び、剣を構え直す。隣の男も、震える手で槍を握りしめた。
(…やる気か。まあ、そうだろうな)
ここで退けば、彼らの面子も、あるいは依頼主からの評価も地に落ちるのだろう。
二人は同時に襲いかかってきた。リーダーの男が正面から剣で斬りかかり、もう一人が側面から槍で突いてくる。挟撃するつもりだ。
俺は冷静に二人の動きを見極める。同時に相手をするのは不利だ。まず一人を確実に潰す。
狙いは、側面からの槍使い。
正面からの剣撃を、バックステップで最小限に回避。その直後、身体を捻りながら沈み込み、側面の槍の突きを潜り抜ける。
そのまま流れるような動作で槍使いの懐に飛び込み、相手の突き出してきた槍の柄を左手で掴んで引き寄せる。
「なっ!?」
バランスを崩した槍使いの腕を右手で捉え、瞬時に腕緘の体勢に移行する。テコの原理を利用し、相手の肘関節を捻り上げる。
「ぎゃあああああ!! 折れる! 折れるぅ!!」
槍使いが絶叫する。関節技の痛みは、通常の打撃とは比較にならない激痛だ。
「や、やめろ!」
リーダー格の男が、味方を顧みず剣を振り下ろしてくる。
(…!)
俺は腕緘を極めたまま、槍使いの身体を盾にするように回転させ、剣撃を受け流す。
そして、痛みに悶える槍使いの首筋に、素早く手刀を打ち込んだ。
「ぐっ…!」
槍使いは白目を剥き、崩れ落ちた。気絶させただけだ。殺してはいない。
(…人を殺すのは、やはり抵抗がある…競技とは違う…)
一瞬、前世の感覚とのギャップに思考が揺らぐ。だが、今は感傷に浸っている場合ではない。
残るはリーダー格の男一人。
男は、次々と仲間が無力化されていく光景を目の当たりにし、完全に戦意を喪失していた。顔面は蒼白になり、剣を持つ手がわなわなと震えている。
「ひっ…ば、化け物…!」
俺はゆっくりと男に歩み寄る。
「…まだ、やるか?」
三度目の問い。今度は、明確な威圧を込めて。
男は数秒間、俺の碧眼に射すくめられたように動けなかったが、やがて、か細い悲鳴を上げると剣を放り出し、脱兎のごとく森の奥へと逃げ去っていった。
後に残されたのは、無力化された四人の男たちと、呆然とこちらを見上げる金髪の少女、そして、静かに佇む銀髪の俺だけだった。
ふぅ、と短い息をつく。
戦闘の高揚感が引き、どっと疲労感が押し寄せてきた。この身体は、本当に燃費が悪い。
俺はゆっくりと金髪の少女の方へ向き直った。