パート5: 舞闘の片鱗
「囲め!」
リーダー格の男が叫ぶ。残った四人の男たちは、即座に散開し、俺を取り囲むようにじりじりと距離を詰めてきた。連携は取れているようだ。ただの山賊ではないのかもしれない。
(…傭兵崩れか、あるいはどこかの私兵か。まあ、どっちでもいい)
俺は周囲の状況を冷静に把握する。四方を囲まれているが、それぞれが武器を持っているため、互いが邪魔になって同時に攻撃は仕掛けにくい。個々を素早く潰せば、勝機はある。
最初に動いたのは、右手の剣を持った男だった。
「死ねぇ!」
叫びと共に、突きを繰り出してくる。これもまた、単純な動きだ。
俺は左足で小さくステップを踏み、身体を右に流しながら、男の剣線を外側から手首で弾く。最小限の動きで攻撃を逸らし、同時に相手の体勢を崩す。
がら空きになった顔面に、素早く右の掌底を打ち込む。
バチン! という乾いた音。
「ぐっ…!」
男は鼻血を噴き出し、よろめいた。
その隙を逃さず、背後から別の男が斧を振りかぶるのが気配で分かった。
俺はよろめいた男の身体を盾にするように引き寄せ、振り下ろされる斧を受け止めさせる。
「がはっ!?」
「なっ!? しまった!」
味方を斬ってしまった男が動揺する。その一瞬の隙。
俺は盾にした男を蹴り飛ばし、動揺している斧使いの懐へ一気に踏み込む。相手が反応するより早く、右のローキックを相手の軸足である左膝の内側に叩き込んだ。
メキッ、と嫌な音が響く。
「ぎゃあああ!?」
男は悲鳴を上げ、膝から崩れ落ちた。戦闘不能。
「こ、このガキ…!」
残るはリーダー格の男と、もう一人。二人は明らかに動揺し、後退りしている。
俺は静かに呼吸を整える。この身体は、やはりスタミナがない。短期決戦が必須だ。
だが、動き自体は悪くない。むしろ、前世にはなかった軽やかさと柔軟性がある。これを活かせば、もっと効率的に戦えるはずだ。
(カウンター主体で、相手の力を利用する。それがベストか…)
チラリと、後方の金髪の少女を見る。まだ地面に座り込んだまま、信じられないものを見るような目でこちらを見ている。
(…早く終わらせて、ここを離れないとな)
俺は再び構えを取り直し、残る二人を睨みつけた。
「…まだやるか?」
その問いは、挑発というより、事実確認に近かった。