パート4: 銀髪、舞う
「さあ、お嬢ちゃん。良い子だから、こっちにおいで?」
リーダー格と思しき、顔に傷のある大柄な男が、手を伸ばそうとした瞬間だった。
「――おい」
凛とした、しかしどこか凄みのある声が、森の静寂を破った。
男たちの視線が一斉に声の主へ向かう。
茂みから現れたのは、銀髪碧眼の、まるで森の妖精か何かのように美しい少女だった。場違いなほどの可憐な姿に、男たちは一瞬、呆気に取られた。
「あ? なんだ、このガキは…?」
一人が訝しげに呟く。
「こんな森の奥に、一人でか? ま、ちょうどいい。こいつも一緒に捕まえりゃ、上の覚えもめでたくなるってもんだ」
別の男が下卑た笑みを浮かべる。
地面に座り込んでいた金髪の少女も、突然現れた同年代の少女に驚き、目を丸くしている。
俺――フローネは、男たちの反応を冷静に観察していた。
(…よし、完全に油断してるな。見た目で舐めてる。好都合だ)
「その子から離れろ。下衆ども」
俺は静かに告げる。口調は自然と、前世のままのぶっきらぼうなものになる。
そのギャップに、男たちは更に面食らったようだった。
「なんだと、このアマ…!」
短気そうな一人が、斧を振りかざして ??かかってくる。直線的で、大振り。完全に素人の動きだ。
(…遅い)
相手の踏み込み、重心移動、筋肉の収縮。その全てが手に取るように分かる。
俺は最小限の動きで半身になり、振り下ろされる斧の軌道を紙一重で躱す。同時に、前足を軸にして身体を回転させ、がら空きになった男の脇腹へ、肘を叩き込んだ。
ゴッ! という鈍い音。
「ぐふっ!?」
男は短い悲鳴を上げ、くの字に折れ曲がって地面に倒れ伏した。
一瞬の静寂。
残りの男たちも、金髪の少女も、何が起こったのか理解できない、という顔で固まっている。
(…よし、威力は思ったより出るな。体重の乗せ方と、身体のバネを活かせば、この身体でも十分通用する)
確かな手応えを感じながら、俺は残りの四人に向き直った。
「次。まとめてかかってこい。時間の無駄だ」
その言葉と、先程までとは打って変わった鋭い眼光に、男たちはようやく目の前の少女がただ者ではないことを悟ったようだった。
顔から油断の色が消え、警戒と殺意が滲み出る。
「て、てめえ…何者だ!?」
リーダー格の男が、剣を構え直し、呻くように尋ねた。
俺は答えず、ただ静かにファイティングポーズをとった。
総合格闘技(MMA)の、無駄のない構え。
ここからが、本番だ。