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パート3: 追われる少女

 茂みの隙間から見えた光景に、俺は思わず目を見開いた。


 必死の形相で駆けてくるのは、一人の少女だった。歳は俺――今のフローネの身体とそう変わらないだろうか。金色の長い髪を振り乱し、上等そうだが泥と枝葉に汚れたドレスを引きずるようにして走っている。その顔には恐怖と疲労の色が濃く浮かんでいた。


 そして、その少女を追い詰めているのは、明らかに武装した男たちだった。革鎧や金属鎧を身に着け、剣や斧を手にしている。その数は五人。傭兵か、あるいは山賊か。いずれにせよ、まともな連中ではない。下卑た笑みを浮かべ、少女を嬲るように追い立てている。


「ヒッ、ヒッ…! はぁ…!」


 少女の息遣いがすぐ近くまで迫る。足がもつれたのか、木の根に躓き、派手に転倒した。


「ぐっ…!」


「へへへ、お嬢ちゃん、もうお終いだぜ?」


 男たちの一人が、下卑た笑みを浮かべて近づく。剣の切っ先を少女に向けた。


「大人しく捕まれ。そうすりゃあ、痛い目は見ねえで済むかもしれねえぜ?」

 別の男が、品定めするように少女の全身を舐め回す。


 少女は恐怖に顔を引き攣らせ、後ずさろうとするが、腰が抜けたのか上手く動けない。その大きな瞳には絶望の色が浮かんでいた。


 (……クソっ)


 俺は舌打ちした。最悪のタイミングで、最悪の場面に出くわしてしまった。


 関わるべきではない。今の俺の身体で、武装した五人の男相手に何ができる? 下手に関われば、俺まで危険に晒される。見捨てるのが合理的だ。大神龍星ならば、そう判断したかもしれない。余計な情は、時に命取りになる。


 だが。


 (……見捨てる、か…)


 恐怖に震える少女の姿。それを嬲る男たちの醜悪な顔。

 前世の記憶が蘇る。不条理な暴力。力の差による蹂躙。俺は、そういうものが何よりも嫌いだった。だからこそ、強さを求めた。自分の拳で、理不尽を打ち砕けるだけの力を。


 (…寝覚めが悪ぃ)


 この少女が何者なのか、なぜ追われているのか、知ったことではない。だが、目の前でか弱い者が一方的に蹂躙されるのを、黙って見過ごすのは性に合わない。たとえ、今の自分が可憐な少女の姿であったとしても。


 (…やるか。やるしかねえか)


 腹を括る。幸い、相手はこちらの存在に気づいていない。油断もあるだろう。そして、この身体…見た目のか弱さは、あるいは武器になるかもしれない。


 俺は茂みの中で、ゆっくりと立ち上がる準備を始めた。筋肉の動き、呼吸のリズム、重心の位置。前世の感覚を、この新しい身体に無理やりねじ込むように。


 勝算は低い。だが、ゼロではない。

 ならば、やる価値はある。


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