パート9: 初めての依頼(クエスト)
冒険者登録は、俺が文字を書けないため、職員による聞き取りと代筆という形で行われた。多少時間はかかったが、無事に完了し、俺は真新しい冒険者カード(ステータスプレートとは別の、身分証のようなものらしい)を受け取った。
ランクは当然、最低のFランクからだ。
「Fランクの冒険者が受けられる依頼は、あちらのクエストボードに掲示されています。依頼を受ける場合は、依頼書を持ってカウンターまでお越しください」
女性職員は、まだ少し訝しげな表情ながらも、事務的に説明してくれた。
俺は礼もそこそこに、クエストボードへと向かった。
壁一面に貼られた依頼書の中から、Fランク向けのものを探す。文字が読めないのは不便だが、依頼内容を示す簡単な絵や記号が描かれているものもある。
(薬草採取…ゴブリン討伐…荷物運び…下水道掃除…)
Fランクの依頼は、やはり地味で報酬も低いものが多いようだ。
だが、今の俺には実績がない。
まずは簡単な依頼をこなし、ランクを上げていくしかないだろう。
その中で、一つ、俺の目に留まった依頼があった。
「近郊の森に出没する『疾風兎』の討伐。素材(毛皮)持ち帰り。報酬、銀貨五枚」
依頼書には、素早い兎のようなモンスターの絵が描かれている。
(疾風兎…)
名前からして、素早いのだろう。今の俺のステータス(高AGI、高DEX)と技術を試すには、ちょうどいい相手かもしれない。それに、報酬もFランクにしては悪くない。
俺はその依頼書を剥がし、再び受付カウンターへ持って行った。
先程の女性職員が、依頼書を見て少し意外そうな顔をした。
「疾風兎の討伐ですか? かなり素早いモンスターですが…大丈夫ですか?」
「問題ない」
俺は短く答える。
女性職員は、俺のステータスを思い出したのか、それ以上は何も言わず、依頼受注の手続きを進めてくれた。
「承りました。期限は三日以内です。ご武運を」
俺は頷き、ギルドを後にした。
初めての冒険者としての依頼。相手は兎。まあ、楽勝だろう…と思いたいが、油断は禁物だ。この世界のモンスターが、どれほどのものか、まだ分からない。
宿に戻ると、リリアーナとセレスが心配そうな顔で待っていた。
「フローネ様、おかえりなさい! どうでしたか?」
リリアーナが駆け寄ってくる。
「ああ。登録は済んだ。Fランクだ」
俺は冒険者カードを見せる。
「それと、早速依頼を受けてきた。明日は森へ行く」
「まあ、もう依頼を? さすがですわね!」
リリアーナが目を輝かせる。
「どんな依頼なのですか?」
セレスも興味深そうに尋ねる。
「疾風兎とかいう兎の討伐だ」
俺が答えると、セレスは少し考え込むような顔をした。
「疾風兎…ああ、あの素早い…。フローネ様の敏捷性なら問題ないかもしれませんが、油断は禁物ですよ。動きがトリッキーですから」
「分かっている」
俺は頷いた。
「明日は朝から出る。お前たちは宿で待っていろ」
「えっ!? 私も行きます!」
リリアーナが即座に反論した。
「足手まといにならないように、援護くらいなら…!」
「私もご一緒しましょうか? 魔法での援護くらいならできますし、森の知識もありますから」
セレスも申し出てくれる。
俺は少し迷った。一人の方が気楽だが、二人の申し出も無下にはできない。特にセレスの魔法援護は、未知のモンスター相手には有効かもしれない。
それに、リリアーナの「強くなりたい」という決意も、ここで頭ごなしに否定するのは違う気がした。
「……はぁ」
またため息が出た。
「…分かった。ついてくるなら勝手にしろ。ただし、俺の指示には絶対に従え。危険だと判断したら、すぐに引き返させるぞ」
「はいっ!」
「承知しました」
リリアーナとセレスは、嬉しそうに頷いた。
こうして、俺の初めての依頼は、またしても三人での行動となった。
明日の兎狩り、どうなることやら。




