パート8: 冒険者ギルドへ
レンブラントの街並みは、リルカ村とは比べ物にならないほど多様で、活気に満ちていた。
武器屋、防具屋、道具屋、宿屋、酒場、様々な露店。
行き交う人々の服装も、貧しい者から裕福な商人、屈強な冒険者、ローブ姿の魔法使いまで様々だ。
俺たちはまず、セレスの案内に従って、手頃な宿屋を見つけ、部屋を確保した。俺とリリアーナは同室、セレスは別室だ。金はリリアーナが立て替えてくれたが、これも後で返さなければならない。
荷物を置き、一息ついた後、俺は早速、冒険者ギルドへ向かうことにした。リリアーナもセレスもついてきたいと言ったが、俺は一人で行くと断った。まずは自分のことを片付けたい。
「ギルドは中央広場の近くにあるはずです。大きな建物ですから、すぐ分かりますよ」
セレスに場所を教えてもらい、俺は一人で宿を出た。
都市の地理はまだ不案内だが、人通りの多い道を選んで歩けば、中央広場には辿り着けるだろう。道行く人々の視線が、時折俺の銀髪や見た目に注がれるのを感じるが、気にしないことにした。
しばらく歩くと、ひときわ大きな建物が見えてきた。頑丈そうな石造りで、入り口には剣と盾を組み合わせた紋章が掲げられている。あれが冒険者ギルドだろう。
入り口の重い扉を押して中へ入ると、そこは酒場のような喧騒に満ちていた。
広いホールには、多くの冒険者たちが集い、談笑したり、酒を飲んだり、依頼書を眺めたりしている。壁には、様々な依頼が書かれた紙がびっしりと貼られていた。
屈強な戦士、軽装の斥候、ローブを着た魔法使い、中には獣人のような姿も見える。まさに、多種多様な「稼業」の人間が集まる場所、という雰囲気だ。
俺の姿――場違いな美少女――に、一瞬、ホールにいる者たちの視線が集まったが、すぐに興味を失ったようにそれぞれの活動に戻っていった。ここでは、見た目だけで判断するのは早計だと知っているのだろう。あるいは、ただ単に、新入りに構っている暇はないのかもしれない。
俺はホールを突っ切り、奥にある受付カウンターへと向かった。カウンターには、数人の職員が忙しそうに書類を捌いたり、冒険者たちの応対をしたりしている。
俺の前にいた冒険者が手続きを終えるのを待ち、カウンターの前に立つ。対応してくれたのは、眼鏡をかけた、少し疲れた表情の若い女性職員だった。
「…はい、ご用件は?」
女性職員は、俺の姿を見て少し驚いたようだったが、すぐに事務的な口調で尋ねてきた。
「冒険者登録をしたい。それと、ステータスプレートの発行を頼む」
俺は単刀直入に用件を告げた。
女性職員は、俺のぶっきらぼうな口調に少し眉をひそめたが、慣れているのか、すぐに手続き用の書類と、水晶のようなものが埋め込まれた金属製のプレートを取り出した。
「新規登録ですね。では、こちらの書類にご記入ください。それから、ステータスを確認しますので、この水晶盤に手を触れていただけますか?」
俺は差し出された書類――文字が読めないが、名前や年齢などを書くのだろう――には構わず、まず水晶盤に手を触れた。自分の能力が、この世界でどう評価されるのか。それを知ることが先決だ。
水晶盤に手を触れると、淡い光が灯った。
女性職員は、手元にある別のプレート――これがステータスプレートか――に視線を落とし、そこに表示された情報を読み上げ始めた。
「ええと…お名前はフローネ様、ですね。年齢15歳、種族は…ヒューマン。職業は…なし。レベル1…」
そこまで読み上げたところで、女性職員の動きが止まった。
「…あれ?」
彼女は怪訝な顔で、ステータスプレートと俺の顔を何度か見比べた。
「どうかしたか?」
俺が尋ねる。
「い、いえ…その…ステータスが…異常、というか…」
女性職員は、信じられないものを見るような目で、プレートの数値を読み上げた。
「筋力(STR)18、体力(VIT)15、敏捷(AGI)35、器用(DEX)40、知力(INT)12、精神(MEN)10… 魔力(MANA)… 0 ……スキル…なし……」
俺は、その数値の意味するところを正確には理解できなかった。だが、女性職員の反応からして、これが普通ではないことだけは分かった。
特に、敏捷(AGI)と器用(DEX)の数値が異常に高く、逆に魔力(MANA)がゼロ。そして、スキルが何もない。
(…なるほどな。俺の強さは、この異常な敏捷性と器用さ、そしてスキルに頼らない純粋な技術、ということか)
魔力ゼロは予想通りだが、AGIとDEXの高さは、この身体のポテンシャルを示しているのかもしれない。前世の経験と、この身体の特性が組み合わさって、あの動きが可能になっているのだろう。
「あ、あの…フローネ様? このステータスは、本当に…?」
女性職員が、戸惑いながら尋ねてくる。レベル1の新人としては、あまりにも偏った、異常な数値なのだろう。
俺は構わず言った。
「それで登録を進めてくれ。名前はフローネだ」
書類は…読めないから、代筆してもらうしかないか。
女性職員は、まだ信じられないという顔をしていたが、やがて諦めたように頷き、登録手続きを進め始めた。
こうして、俺は正式に、この世界の冒険者となった。
レベル1、職業なし、スキルなし、魔力ゼロ。
だが、異常に高い敏捷性と器用さ、そして前世から受け継いだMMA技術を持つ、異端の冒険者フローネとして。




