パート7: レンブラントの城門
街道を歩き続けること、さらに二日。
ついに、俺たちの目の前に、巨大な城壁が見えてきた。高くそびえ立つ石造りの壁が、地平線まで続いているように見える。壁の上には等間隔に見張り台が設けられ、旗が風にはためいている。あれが、都市レンブラントか。
「わぁ…! 大きい…!」
リリアーナが感嘆の声を上げる。リルカ村とは比較にならない規模だ。貴族令嬢である彼女ですら、驚くほどの大きさらしい。
「レンブラントは、アストラ王国でも有数の商業都市ですからね。人も物も多く集まります」
セレスが説明を加える。
俺も、その威容に内心では驚いていた。前世で見たどんな城壁よりも巨大で、堅牢そうだ。この規模の都市を維持するには、相当な国力が必要だろう。
城門へと続く道は、多くの人々で賑わっていた。荷馬車を連ねる商人、武装した冒険者らしき一団、様々な身なりの旅人たち。活気がある。
俺たちは、人の流れに合流し、城門へと向かった。
城門の前では、鎧を身に着けた兵士たちが、出入りする人々をチェックしていた。入市税のようなものを徴収しているのだろうか。あるいは、身分証の確認か。
(…面倒なことにならなければいいが)
俺もリリアーナも、身分を証明するものなど持っていない。セレスはどうだろうか。
順番が来て、俺たちは門番の兵士の前に立った。兵士は、まずセレスに目を向けた。
「身分証の提示を」
事務的な口調だ。
セレスは落ち着いた様子で、懐から小さな金属製の札のようなものを取り出して見せた。
「魔法使いギルドの登録証です」
兵士はそれを確認すると、頷いた。
「よし、通れ」
次に、兵士の視線が俺とリリアーナに向けられる。特に、リリアーナの明らかに上等な(しかし汚れている)旅装と、俺の銀髪碧眼という珍しい見た目に、怪訝な表情を浮かべた。
「お前たちは?」
俺はセレスに倣って答えるべきか迷ったが、正直に言うしかないだろう。
「旅の者だ。身分を証明するものはない」
兵士は眉をひそめた。
「身分証なしか。では、入市税を払ってもらう。一人銀貨三枚だ」
(銀貨三枚…)
バルガス村長からもらった金銭がいくらあるか分からないが、おそらく大金だろう。払えるだろうか?
俺が懐の革袋を探ろうとした時、リリアーナがおずおずと前に出た。
「あ、あの…私、払います!」
そう言って、小さなポーチから銀色の硬貨を数枚取り出した。どうやら、貴族だけあって、多少の金銭は持っていたらしい。
兵士は銀貨を受け取ると、無言で頷き、俺たちを通してくれた。
(…助かったが、少し気に食わんな)
リリアーナに借りを作ってしまった。後で必ず返さねばなるまい。
ともあれ、俺たちは無事にレンブラントの城門を通過することができた。
門をくぐると、そこには更に活気に満ちた光景が広がっていた。
石畳の広い道。軒を連ねる様々な店。行き交う大勢の人々。喧騒と熱気。
これが、都市レンブラント。
俺たちの新たな活動の舞台となる場所だ。
「さて、まずは宿を探しましょうか。それから、フローネ様は冒険者ギルドへ?」
セレスが俺に尋ねる。
「ああ、そのつもりだ」
俺は頷いた。
まずは、自分のステータスとやらを確認し、冒険者として登録する。話はそれからだ。
都市の喧騒の中、俺たちは新たな一歩を踏み出した。




