パート6: 魔法使いとの対話
セレスと名乗った魔法使いとの道行きは、思ったよりも有益だった。
彼女は、俺たちが異世界(という言葉は使わないが、明らかに世間知らずであること)に戸惑っているのを察したのか、道々、様々なことを教えてくれた。
「魔法というのは、世界に満ちるマナを、精神力で制御して現象を起こす技術です。適性があれば誰でも使えますが、高度な魔法を使うには才能と訓練が必要になります」
セレスは杖を弄びながら、淀みなく説明する。
「さっき使っていたのは、風の初級魔法、《ウィンド・カッター》です。威力はそれほどでもありませんが、牽制には便利なんですよ」
俺は黙って聞いていたが、疑問点をぶつけてみる。
「マナ、というのは無限にあるのか? 魔法は使い放題なのか?」
セレスは少し驚いた顔をしたが、すぐに微笑んで答えた。
「いいえ、そんなことはありません。術者の体内のマナ容量には限りがありますし、強力な魔法ほど消費も激しいです。無理に使えば、マナ欠乏を起こして倒れてしまいます。それに、魔法の発動には集中力が必要ですから、乱戦の中や、不意を突かれると弱いんですよ」
(…なるほどな。やはり、限界と弱点はあるわけだ)
俺がリルカ村で騎士団の魔法使い(もしいたとして)と戦っていたら、接近して詠唱を妨害するのが有効だっただろう。
「スキルやステータスについても聞きたい。あれは一体なんなんだ?」
俺はさらに尋ねる。
「スキルは、特定の行動や経験を積むことで得られる特殊能力のようなものです。剣術スキル、火魔法スキル、鑑定スキル、など様々です。ステータスは、その人の基本的な能力値を表したもので、レベルアップなどで上昇します。どちらも、神殿やギルドのステータスプレートで確認できますよ」
「レベルアップ…」
まるでゲームのような概念だ。だが、この世界ではそれが現実らしい。
「フローネ様は、ご自身のステータスをご存じないのですか? それであの伝え聞く強さとは…信じられません」
セレスは感嘆したように言った。やはり、俺が騎士団を退けた話は、どこからか伝わっているのかもしれない。あるいは、俺の佇まいから何かを感じ取っているのか。
「俺には、そういう小難しいことは分からん。ただ、鍛えた身体と技術があるだけだ」
俺は素っ気なく答える。
セレスは興味深そうに俺を見つめた。
「鍛えた身体と技術…ですか。魔法が主流のこの時代に、珍しいですね。ですが、フローネ様の戦い方は、とても合理的で、洗練されているように見えました。まるで、古の武術家のようです」
(古の武術家…)
バルガス村長も似たようなことを言っていた。この世界にも、かつては俺の使うような体術が存在したのだろうか?
そんな会話を交わしながら、街道を進んでいく。
リリアーナは、最初は魔法使いであるセレスに少し緊張していたようだが、セレスの穏やかな人柄に触れて、次第に打ち解けていったようだった。女性同士、話も合うのかもしれない。俺にはよく分からないが。
「セレス様は、レンブラントには何か御用で?」
リリアーナが尋ねる。
「はい。少し調べたいことがありまして。それに、魔法使いとしても、もっと腕を磨きたいと思っています。レンブラントには大きな図書館や、優秀な魔法使いの方もいると聞きますから」
セレスはそう言って微笑んだ。
魔法使いセレス。彼女もまた、自分の道を歩んでいるのだろう。
俺は、少しだけ、この新たな同行者に親近感のようなものを感じ始めていた。もちろん、警戒は解いていないが。
レンブラントは、もう目前に迫っているはずだ。
都市での生活、冒険者ギルド、そして、魔法という未知の力。
俺の異世界での物語は、ようやく本格的に動き出そうとしていた。




