パート4: 旅立ちの準備
レンブラントへの出発は、三日後と決まった。
俺自身の体力回復と、旅の準備に必要な時間だ。その間、俺は小屋で休息を取りつつ、バルガス村長や他の村人たちから、レンブラントや道中の情報、そしてこの世界の基本的な知識について聞き取りを行った。
やはり、魔法はこの世界の根幹をなす力らしい。生活の隅々にまで浸透しており、魔法を使えるかどうかで、社会的地位や生き方が大きく変わる。魔法使いは尊敬されると同時に、畏怖される存在でもあるようだ。
スキルやステータスは、やはり神殿での洗礼か、冒険者ギルドでの登録によって「可視化」されるとのこと。自分の能力を数値で把握できるというのは、ある意味合理的だが、それに頼りすぎる弊害もあるのではないか、と俺は感じた。
冒険者ギルドは、実力主義の組織であり、様々な依頼をこなすことで報酬と名声を得られる場所らしい。国に属さず、自由な立場だが、それゆえに危険も多い。俺のような、身元の不確かな人間が活動するには、都合の良い場所かもしれない。
一方、リリアーナは、村の女性たちに教わりながら、旅に必要な知識――野営の方法、簡単な応急手当、食料の保存方法などを必死で学んでいた。貴族令嬢とは思えないほどの熱心さで、時折失敗しながらも、健気に努力している姿は、少しだけ感心させられた。
「フローネ様、見てください! 火起こし、できるようになりました!」
得意げに火打石を打ち鳴らすリリアーナ。その顔は煤で少し汚れていた。
「…ああ、そうか。火傷するなよ」
俺は相変わらず素っ気なく返すが、内心では(少しは役に立つようになったか)と思っていた。
村人たちも、俺たちの旅立ちのために協力してくれた。
バルガス村長は、古びてはいるが丈夫な革鎧と、旅用のマントを用意してくれた。俺の身体に合わせて、村の女性がサイズを調整してくれたらしい。
「フローネ様には武器がないようじゃったからな。まあ、あんたにゃ不要かもしれんが、気休めにはなるじゃろ」
とのことだ。鎧など着るのは初めてだが、防御力は上がるだろう。ありがたく受け取ることにした。
食料も、干し肉や保存の効くパン、木の実などを、村でできる限り分けてくれた。リリアーナも、自分で作った(らしい)携帯食を準備している。
そして、拘束した騎士たちだが、結局、出発の前日に解放することにした。武器は返さず、食料と水を少しだけ与え、「二度とこの村に近づくな」と警告して追い払った。いつまでも村に置いておくわけにはいかないし、殺すわけにもいかない。これが最善の判断だろう。ゲルハルト隊長は、屈辱に顔を歪ませながらも、何も言わずに部下を連れて去っていった。嵐の前の静けさ、でなければいいが。
三日後。旅立ちの朝。
俺はバルガス村長から借りた革鎧とマントを身に着け、背中に荷物を背負った。見た目は、少しだけ冒険者らしくなったかもしれない。相変わらず、銀髪碧眼の美少女だが。
リリアーナも、動きやすい旅装に着替え、決意を秘めた顔で隣に立っている。
村人たちが見送りに集まっていた。恐怖と畏怖だけでなく、今は感謝と、そしてわずかな親しみがその目に浮かんでいるように見えた。
「フローネ様、リリアーナ様、どうかお気をつけて!」
「レンブラントに着いたら、俺たちのこと、たまには思い出してくだされよ!」
口々に、別れの言葉をかけてくれる。
バルガス村長が、俺たちの前に進み出た。
「フローネ様、リリアーナ様。短い間じゃったが、世話になった。これは餞別じゃ」
そう言って、小さな革袋を差し出す。中には、さらにいくらかの金銭が入っているようだった。
「…世話になったのはこっちだ。村長、達者でな」
俺は革袋を受け取り、短く礼を言う。
リリアーナも、深々と頭を下げた。
「バルガス様、村の皆様、本当にありがとうございました。このご恩は、決して忘れません」
俺たちは、リルカ村の住人たちに見送られながら、東へと続く街道へと歩き出した。
目指すは、都市レンブラント。
新たな出会いと、新たな戦いが、そこには待っているだろう。俺は、少しだけ引き締まる思いで、前を見据えた。




