パート3: リリアーナの決意
俺がレンブラントへ向かうことを示唆すると、傍らで話を聞いていたリリアーナの表情が曇った。
「フローネ様…レンブラントへ、行かれるのですか?」
「ああ。ここには長居できないだろうしな。それに、ギルドとやらに用がある」
俺は簡潔に答える。
リリアーナは俯き、何かを考え込むように黙り込んだ。村長のバルガスも、その様子を静かに見守っている。
やがて、リリアーナは意を決したように顔を上げた。その瞳には、強い意志の色が宿っていた。
「…フローネ様。私も、レンブラントへ連れて行っていただけないでしょうか」
「…は?」
予想外の言葉に、俺は思わず聞き返した。バルガスも少し驚いた顔をしている。
「お前、何を言ってるんだ? この村で保護してもらうのが安全だろう」
「いいえ」
リリアーナはきっぱりと首を横に振った。
「この村にいたら、フローネ様や村の皆さんに、これ以上ご迷惑をおかけしてしまいます。それに…」
リリアーナは俺の目を真っ直ぐに見つめた。
「私は、フローネ様のお側で、フローネ様から学びたいのです。自分の身くらい、自分で守れるようになりたい。もう、ただ守られているだけでは嫌なのです」
その言葉は、か細いながらも、確かな覚悟を感じさせるものだった。森で出会った時のような、ただ怯えるだけの少女ではない。俺の戦いを目の当たりにし、何かを感じ、変わろうとしている。
(…面倒なことを言い出したな)
正直、足手まといが増えるのは避けたい。だが、リリアーナの真剣な眼差しを見ると、無下に断ることも躊躇われた。それに、こいつを一人でこの村に残していくのも、なんとなく後味が悪い。
俺はしばらく黙って考え込んだ。
リリアーナを連れて行くリスク。置いていくリスク。どちらが大きいか。
連れて行けば、道中の危険は増えるだろう。だが、俺の目が届く場所にいれば、不測の事態には対処できるかもしれない。置いていけば、村に危険が及ぶ可能性は減るかもしれないが、リリアーナ自身の安全は保証されない。
バルガスが口を開いた。
「…リリアーナ様の気持ちも分かる。フローネ様のような方が側にいてくだされば、これほど心強いことはあるまい。だが、道中は危険も多いだろう。フローネ様の足手まといになるのでは?」
「覚悟の上です!」
リリアーナは即答した。
「足手まといにならないよう、必死で努力します。どうか、お願いします、フローネ様!」
リリアーナは深く頭を下げた。
「……はぁ」
俺はまたしても深いため息をついた。どうしてこう、面倒事を背負い込む羽目になるのか。
「…好きにしろ。ただし、言っておくが、俺は甘やかさないぞ。自分のことは自分でやれ。危険な目に遭っても、俺を恨むなよ」
「! はいっ! ありがとうございます、フローネ様!」
リリアーナの顔が、再びぱっと明るくなる。その笑顔は、やはり眩しかった。
バルガスも、安堵したような、少し心配なような、複雑な表情で頷いた。
「…そういうことなら、仕方あるまい。道中の準備は、村でできる限り手伝わせてもらおう。食料や、最低限の旅の装備も用意しよう」
こうして、俺のレンブラントへの旅に、リリアーナが同行することが決まった。
一人旅のはずが、またしても奇妙な二人旅だ。まあ、これも運命というやつなのかもしれない。
俺は窓の外に広がる、見慣れない異世界の空を見上げた。
都市レンブラント。冒険者ギルド。そして、魔法やスキルが存在する世界。
これから始まるであろう新たな日々に、わずかながら、期待のようなものが胸に込み上げてくるのを感じていた。




