パート2: 束の間の休息と情報
村人たちは、バルガスの指示に従い、テキパキと動き始めた。
男たちは恐る恐る、しかし確実に、意識を取り戻し始めた騎士たちの武器を取り上げ、縄で縛り上げると、村の奥にある頑丈な倉庫へと運んでいく。フローネが以前補強を手伝った、あの倉庫だ。まさか、こんな形で使うことになるとは。
俺はその様子を、小屋の入り口からぼんやりと眺めていた。
激戦の疲労は深く、身体のあちこちが軋むように痛む。
特に、ゲルハルト隊長の強化された一撃を受け流した腕は、打撲で紫色になっていた。
「フローネ様、少しじっとしていてください」
小屋の中では、リリアーナが心配そうな顔で、濡らした布で俺の腕を冷やそうとしてくれていた。村の女性に薬草をもらってきたらしい。
「…別に、このくらいどうってことない」
俺は反射的に拒否しようとするが、リリアーナは構わず、そっと布を当ててくる。ひんやりとした感触が心地よい。
「ダメです。あんなに無茶をしたのですから。少しでも手当てしないと」
その口調は、いつもの遠慮がちなものではなく、どこか有無を言わせぬ響きを持っていた。
(…こいつも、少しは図太くなったのか?)
俺は諦めて、されるがままになった。誰かに手当てされるなど、前世でもほとんど経験のないことだ。妙な居心地の悪さを感じながらも、リリアーナの懸命な様子を見ていると、強く拒む気にもなれなかった。
しばらくすると、バルガス村長が小屋を訪ねてきた。手には、小さな革袋と、包みを持っている。
「フローネ様、具合はどうじゃ?」
「…問題ない」
俺は素っ気なく答える。
「そうか…ならいいんじゃが」
バルガスは苦笑しながら、革袋と包みを差し出した。
「これは、村からのささやかな礼じゃ。食料と、僅かだが金も入っとる。受け取ってくだされ」
俺は黙ってそれを受け取った。金はこの世界の通貨だろうか。初めて見る形だ。
「…助かる」
「して、今後のことじゃが…」
バルガスは少し改まった表情になった。
「騎士たちは倉庫に閉じ込めてある。数日は大人しくしているだろう。だが、いつまでもというわけにはいかん。それに、隊長が戻らんとなれば、騎士団も黙ってはおるまい」
「だろうな」
「フローネ様は、これからどうなさるおつもりかな? もし行く当てがないのなら、少し情報を差し上げようと思うんじゃが」
(…渡りに船、だな)
俺もちょうどそれを聞きたかった。
「いくつか聞きたいことがある」
俺はバルガスに向き直った。
「一つは、冒険者ギルドについて。この近くにあるのか?」
バルガスは頷いた。
「うむ。ここから東へ三日ほど歩けば、レンブラントという大きな都市がある。そこには、大きな冒険者ギルドの支部があるはずじゃ。フローネ様ほどの腕があれば、ギルドに登録すれば食いっぱぐれることはあるまい」
(レンブラント…冒険者ギルド…)
重要な情報を得た。
そこへ行けば、仕事も見つかるだろうし、この世界のことをもっと知れるかもしれない。
「もう一つ。スキルやステータスというのは、どうすれば分かるんだ? 俺には、そんなものは見えないんだが」
俺は、村人たちの会話で気になっていたことを尋ねた。
バルガスは、俺の質問に少し驚いた顔をした。
「なんと…フローネ様は、ご自身のステータスが見えんのか? それはまた…珍しい。普通は、神殿で洗礼を受けるか、ギルドで登録すれば、ステータスプレートというものに自分の能力が映し出されるようになるんじゃが…」
「ステータスプレート…」
やはり、ギルドに行く必要がありそうだ。
「まあ、フローネ様ほどの御仁なら、ステータスなど関係ないのかもしれんがな」
バルガスは感心したように言った。
(…そうでもない。自分の能力を客観的に把握できないのは、戦う上で不利だ)
俺は黙って頷いた。
目的地は決まった。レンブラント。冒険者ギルド。
まずはそこで、自分のことを知り、この世界での足場を築くことから始めるしかない。
束の間の休息の後には、新たな旅立ちが待っている。




