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パート2: 森の気配


 森の中を、慎重に進む。

 フローネ、と名乗るらしいこの身体は、見た目通りというべきか、持久力に乏しい。少し歩いただけで息が上がる。前世では考えられない虚弱さだ。


 (…クソ、この身体、本当に使いづらい…)


 内心で悪態をつきながらも、五感は最大限に研ぎ澄ませていた。視覚、聴覚、嗅覚。格闘家として培った危機察知能力は、身体が変わっても鈍ってはいない…と思いたい。


 森は深い。陽の光は木々の葉に遮られ、昼間だというのに薄暗い場所が多い。湿った土と腐葉土の匂い。時折聞こえる、名も知らぬ鳥の声や獣の気配。それは決して穏やかなものではなく、常にどこかに緊張感が漂っている。


 (…油断すれば、死ぬな。ここはそういう場所だ)


 格闘技のリングやケージも死線だったが、それはルールとレフェリーのいる管理された死線だ。ここは違う。いつ、どこから、何が襲ってくるか分からない、本物の生存競争の場だ。


 しばらく歩き、比較的開けた場所で足を止めた。小川が流れており、水の補給はできそうだ。水面に映る自分の姿に再び顔を顰めつつも、手で水を掬って飲む。冷たくて、少し土の味がした。


 (さて、これからどうするか…)


 闇雲に進んでも消耗するだけだ。まずは現在地の把握と、食料の確保が優先か。木の実のようなものは生っているが、毒があるかもしれない。下手に手を出すのは危険だ。


 思考を巡らせていると、ふいに、空気が震えるような感覚があった。

 微かな、しかし無視できない気配。


 (…!)


 反射的に身を低くし、近くの茂みに身を隠す。全身の神経を耳と肌に集中させる。

 複数の足音。それも、規則的ではない、乱れた足音だ。一つは軽く、必死に逃げているような不規則なリズム。残りの数人は、重く、荒々しい。獲物を追い詰めるような、獰猛な気配。


 数は…少なくとも三、四人か。いや、もっといるかもしれない。逃げているのは一人。


 (…人間か? それとも、この世界の別の種族か…?)


 息を殺し、気配のする方向を睨む。茂みの隙間から、注意深く様子を窺った。


 (面倒事は避けたい。今の俺…いや、私の身体では、まともに戦えるかどうかも怪しい)


 関わるべきではない。それが理性的な判断だ。だが、逃げる者の必死な気配と、追う者の悪意に満ちた気配が、妙に神経を逆撫でする。


 (…どうする?)


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