パート1: 戦いの後
リルカ村の入り口は、凄惨な光景が広がっていた。
地に伏せる王国騎士団の兵士たち。飛び散った武具。そして、その中心に、銀髪の少女――俺が一人、静かに立っている。
村人たちは、遠巻きにその光景を眺め、声も出せずにいた。先程までの恐怖と、目の前で繰り広げられた信じられない戦い、そしてその結果に、ただただ圧倒されている。
(…クソ、身体が重い…)
俺は内心で悪態をつく。全身の筋肉が悲鳴を上げ、呼吸もまだ整わない。騎士団長との最後の攻防は、想像以上に体力を消耗していた。立っているのがやっと、というのが正直なところだ。
「フローネ様!」
そんな俺に、リリアーナが駆け寄ってきた。その瞳は潤み、心配そうに俺の顔を覗き込む。
「お怪我は!? 大丈夫なのですか!?」
「…問題ない」
俺はいつものように、ぶっきらぼうに答える。心配されるのは慣れていないし、弱みを見せたくないという意地もある。
「それより、こいつらをどうするかだ」
俺は顎で、転がっている騎士たちを示す。
その言葉で、村人たちも我に返ったようだった。村長のバルガスが、覚悟を決めた顔で俺に近づいてくる。
「フローネ…さん。すまなかったな、あんた一人に任せるような形になっちまって…」
バルガスは深々と頭を下げた。その額には脂汗が滲んでいる。
「礼はいい。それより、今後のことだ」
俺は疲労を押し殺し、バルガスに話を促す。
「騎士団を退けたが、これで終わりじゃないだろう。奴らは必ず戻ってくる。あるいは、もっと大軍でな。この村はどうするつもりだ?」
俺の問いに、バルガスは難しい顔で唸った。
「それは…これから皆で相談せねばなるまい。騎士団を敵に回してしまったのだからな…」
バルガスは村の男たちを集め、緊急の寄り合いを始めた。皆、顔は青ざめ、不安と恐怖の色を隠せない。騎士団からの報復を恐れる声、フローネへの感謝と畏怖の声、リリアーナをどうすべきかという声が入り混じる。
俺はその議論の輪には加わらず、少し離れた場所で壁に寄りかかり、体力の回復に努めた。リリアーナが心配そうに傍らに立っている。
やがて、議論は一応の結論を見たようだった。バルガスが、再び俺の元へやってくる。その顔には、疲労と、そしてある種の覚悟が浮かんでいた。
「フローネさん…いや、フローネ様と呼ばせてもらう」
バルガスは改まった口調で言った。
「村としての意見がまとまった。まず、倒れた騎士たちじゃが…武器を取り上げ、村の倉庫に一時的に拘束させてもらう。殺すわけにはいかんからな」
「…妥当な判断だ」
俺は頷く。殺せば、言い訳の余地がなくなる。
「そして、リリアーナ様のことじゃが…我々は、リリアーナ様を見捨てることはせん。あんたがあれだけの戦いをして守ってくれた方を、騎士団が怖いからといって突き出すような真似はできん」
バルガスの言葉に、リリアーナがはっと顔を上げた。
「ただし、この村に長居はさせられん。騎士団の目が光っている以上、ここにいてはリリアーナ様も、村も危険じゃ。頃合いを見て、村から送り出すことになるだろう」
それが、村としてのギリギリの選択なのだろう。
「最後に、フローネ様。あんたには、感謝してもしきれん。あんたがいなければ、今頃、村は…」
バルガスは言葉を詰まらせた。
「あんたの処遇についてじゃが…俺たちがあんたをどうこうできる立場ではない。ただ、もしあんたさえ良ければ、少しの間、この村で傷と疲れを癒してはくれんだろうか? ささやかだが、礼もさせてもらいたい」
俺はバルガスの目を見た。そこには打算だけでなく、純粋な感謝と、俺という存在への畏敬の念が見て取れた。
ちょうどいい。俺も休息が必要だ。そして、情報も。
「…分かった。世話になる」
俺は短く答えた。
こうして、戦いの後の、束の間の休息が始まることになった。




