パート9: 理解不能な強さ
「怯むな! 囲んで叩き潰せ!」
ゲルハルトが怒声で部下たちを叱咤する。残った七、八人の騎士たちが、再び俺を取り囲むように動き出した。今度は、先程よりも慎重に、連携を密にして。
一斉に斬りかかってくるのではなく、一人がフェイントをかけ、別の者が死角から攻撃を仕掛ける。あるいは、盾を持つ者が前面に出て防御を固め、その隙間から槍で突いてくる。明らかに、俺を消耗させ、確実に仕留めようという意図が見えた。
(…厄介だな。だが…)
俺は冷静だった。
相手の動きの一つ一つ、連携のパターン、呼吸のリズムまで読み切る。前世の試合の経験の積み重ねだ。
盾の隙間を縫うように繰り出される槍の穂先を、最小限の動きで弾き、逸らす。
死角からの剣撃を、身体のバネを活かしたステップで回避し、逆に相手のバランスを崩す。
フェイントには乗らず、的確にカウンターの打撃を急所に叩き込む。
それはまるで、舞いを踊るかのようだった。
銀髪をなびかせ、華奢な身体をしなやかに躍動させながら、屈強な騎士たちの猛攻を捌き、的確に反撃を加えていく。
村人たちも、騎士たちさえも、その常識外れの光景に言葉を失っていた。
「なぜだ!? なぜ当たらん!」
「動きが読めん…!」
「こいつ、本当に人間か…!?」
騎士たちの焦りの声が聞こえる。
俺の戦い方は、彼らの理解を超えていた。魔法のように派手なエフェクトはない。だが、人間の身体能力と物理法則を極限まで突き詰めた動きは、彼らの常識では捉えきれないのだ。
重心の移動、力の脱力と集中、タイミングの見極め、フェイントとカウンターの応酬、関節や急所への正確な攻撃――その全てが、総合格闘技(MMA)という、前世で俺が血反吐を吐きながら磨き上げた技術の結晶だった。
一人、また一人と、騎士たちが俺の拳、蹴り、肘、膝によって打ち倒されていく。あるいは、関節を破壊され、あるいは急所を打たれて意識を失う。鎧は、致命傷を防ぐ役には立っても、衝撃や関節技を防ぐことはできない。
ついに、ゲルハルト隊長を除いて、全ての騎士が地面に倒れ伏した。中にはまだ意識があり、呻き声を上げている者もいるが、まともに戦える者は一人もいない。
俺は、肩で息をしながら、ゲルハルトと対峙した。
身体は限界に近い。あちこちが軋み、痛みを発している。だが、まだ立てる。まだ戦える。
ゲルハルトは、信じられないものを見た、という表情で立ち尽くしていた。その顔には、驚愕と、屈辱と、そしてわずかな恐怖の色さえ浮かんでいた。
「…馬鹿な…たった一人で、私の部隊が…こんな小娘一人に…」
俺は無言のままなにも答えない。ただ、静かにゲルハルトを見据える。
勝負は、まだ終わっていない。




