パート7: 騎士団の要求
「リリアーナ…お嬢様…?」
「やはり、貴族の方だったのか…」
村人たちがざわめく。リリアーナが身分を隠していたことが、これで明らかになった。
村長のバルガスは、動揺を隠せない様子だったが、それでも一歩前に出て、馬上の騎士ゲルハルトと名乗った男に向き合った。
「…王国騎士団の方が、このような辺境の村に、何の御用でしょうか。リリアーナ様は、確かにこの村におられますが…」
ゲルハルトは、バルガスを鼻であしらうように見下した。
「ほう、やはりいたか。ならば話は早い。その娘を引き渡してもらおう。お家騒動に巻き込まれた、いわばお尋ね者だ。匿えば、村ごと反逆罪に問われることになるぞ」
冷たく言い放つ。その言葉には、有無を言わせぬ威圧感があった。
「は、反逆罪…!?」
村人たちは蒼白になる。辺境の村にとって、王国騎士団、ましてや反逆罪など、想像もつかない恐怖だ。
バルガスも顔を引き攣らせた。
「そ、それは…しかし、リリアーナ様は、我々にとっては客人です。それに、まだ子供。何か事情があるのでは…」
「黙れ、愚民が!」
ゲルハルトは一喝した。
「貴様らに、貴族の事情を詮索する権利などない! 我々は王命により、リリアーナ嬢を保護――いや、確保しに来たのだ。速やかに引き渡せ。さもなくば、実力を行使するまでだ!」
ゲルハルトは腰の剣の柄に手をかけた。後ろに控える騎士たちも、一斉に武器を構える。空気が一気に張り詰めた。
村人たちは恐怖に震え、後退りする。槍を持つ手も震えている。戦意など、もはや欠片もないだろう。
バルガスも、苦渋の表情で唇を噛み締めている。村を守るためには、リリアーナを引き渡すしかないのかもしれない。
(…胸糞悪い展開だな)
俺は静かに状況を見ていた。リリアーナがどんな事情を抱えているのかは知らない。だが、このゲルハルトという男のやり方は、あまりにも高圧的で、気に食わない。そして何より、リリアーナは俺が助けると決めた相手だ。たとえ一時的であっても。
バルガスが、諦めたように口を開きかけた、その時だった。
「――待て」
俺は、バルガスの前に進み出て、ゲルハルトを真っ直ぐに見据えた。
「あん?」
ゲルハルトは、突然現れた銀髪の少女に、訝しげな目を向けた。
「なんだ、貴様は? 関係ない者は引っ込んでいろ」
「俺はフローネ。リリアーナの…まあ、用心棒みたいなもんだ」
俺は言い放つ。
「リリアーナを引き渡すかどうかは、俺が決める」
その言葉に、ゲルハルトだけでなく、村人たちも、そして後方のリリアーナさえも、唖然とした顔で俺を見た。
一介の、それも見た目はか弱い少女が、王国騎士団の部隊長に真正面から啖呵を切ったのだ。
ゲルハルトは、一瞬呆気に取られていたが、やがて、顔を侮蔑と怒りに歪ませた。
「…面白い。どこぞの馬の骨か知らんが、騎士団に逆らうとは、命知らずな小娘だ。その愚かさを、後悔させてやる」
ゲルハルトは、馬から静かに飛び降りた。
腰の剣を抜き放ち、その切っ先を俺に向ける。
「かかれ! あの小娘と、抵抗する村人は皆殺しにしろ!」
冷酷な命令が下された。
騎士たちが、一斉に村へとなだれ込もうとする。
村人たちの悲鳴が上がる。
(…結局、こうなるか)
俺は、静かにファイティングポーズを取った。
相手は王国騎士団。数は十数名。装備も訓練も、これまでの相手とは比較にならないだろう。
だが、やるしかない。
この拳で、理不尽を打ち砕く。
それが、今の俺にできる、唯一のことだ。




