パート6: 招かれざる客
リルカ村での生活にも、少しずつ慣れてきた頃だった。
相変わらず力仕事に駆り出される日々だが、食事と寝床が確保されているだけでもありがたい。
リリアーナも、失敗しながらも家事手伝いをこなし、村の女性たちと打ち解け始めているようだった。
その日、俺は村の見張り台の上で、交代で見張りの任についていた。高い場所から村全体と周囲の森を見渡せる。異変があれば、すぐに鐘を鳴らして知らせるのが役目だ。
(…平和だな)
畑では村人たちが働き、子供たちの遊ぶ声が聞こえる。ごく普通の、辺境の村の風景だ。あの森での出来事が嘘のようだ。
だが、その平和は、唐突に破られた。
遠く、森の境界線あたりから、複数の人影が現れたのだ。
俺は目を凝らす。装備からして、村人ではない。旅人か? いや、雰囲気が違う。統率が取れており、明らかに武装している。その数は…十人以上か。
(…!)
嫌な予感がした。あの時の連中か?
いや、雰囲気が違う。もっと組織的で、装備も良い。まるで、正規の兵士か騎士のようだ。
彼らは真っ直ぐに村へ向かってくる。友好的な様子には見えない。むしろ、威圧的だ。
俺は迷わず、見張り台の鐘を打ち鳴らした。
カーン! カーン! カーン!
けたたましい鐘の音が、静かな村に響き渡る。
畑仕事をしていた村人たちが、驚いて顔を上げる。何事かと見張り台を見上げる者、慌てて家に駆け込む者。村に緊張が走る。
すぐに、村長のバルガスが家から飛び出してきた。他の男たちも、鍬や斧、古びた槍などを手に集まってくる。
「フローネ! 何があった!?」
バルガスが見張り台に向かって叫ぶ。
「武装した集団が村に向かっている! 数は十数名! 装備が良い、ただの賊じゃない!」
俺は簡潔に状況を報告する。
バルガスの顔色が変わる。
「なんだと…!? この時期に、騎士団の巡回でもあるまいに…」
武装集団は、もう村の入り口近くまで迫っていた。先頭に立つのは、ひときわ立派な鎧を身に着け、馬に乗った男だ。その顔つきは厳しく、冷たい光を宿している。
村の入り口で、見張りの村人たちが槍を構えて対峙するが、数の上でも装備の上でも、明らかに劣勢だ。
「村長! どうします!?」
村の男たちがバルガスに詰め寄る。
バルガスは苦渋の表情で、迫り来る集団を睨みつけた。
「…まずは話を聞くしかあるまい。だが、油断するな! 女子供は家の中に! 早く!」
俺も見張り台から飛び降り、バルガスの隣に立った。
リリアーナは、村長の家から不安そうな顔でこちらを見ている。俺は彼女に目線で「隠れていろ」と合図した。
武装した集団は、村の入り口で停止した。
馬上の騎士らしき男が、尊大な態度で見張りの村人たちを見下ろした。
「我々はアストラ王国騎士団、第三部隊隊長、ゲルハルトである! この村に、リリアーナ・フォン・アストライアと名乗る娘が来ていないか!」
その言葉に、村人たちの間に動揺が走る。そして、皆の視線が、村長の家に隠れているリリアーナへと集まった。
(…やはり、こいつ目当てか!)
俺は内心で舌打ちした。
厄介事が、向こうからやってきた。それも、最悪の形で。




