パート5: 村での仕事と違和感
リルカ村での生活が始まった。
俺とリリアーナには、村外れの空き家――というより、ほとんど物置に近い小屋があてがわれた。最低限の寝床と、簡単な生活用具があるだけだ。
まあ、雨風を凌げるだけマシか。
翌日から、俺たちは早速、村の仕事を手伝うことになった。
リリアーナは、その見た目と貴族という(※村人たちも薄々感づいている)出自から、主に家事手伝い――洗濯や料理の手伝い、子供たちの世話などを任された。本人は慣れない作業に戸惑いながらも、一生懸命に取り組んでいるようだった。時折、失敗しては落ち込んでいるが。
一方、俺はというと…。
「おーい、フローネ! こっちの薪割り、頼む!」
「フローネ、悪いが畑の石拾い、手伝ってくれ!」
「フローネ、見張り台の補強、できるか?」
なぜか、力仕事ばかりを頼まれることになった。
理由は明白だ。俺が森でロックボアを倒したことが、いつの間にか村中に広まっていたのだ。あの時、様子を目撃した村人がいたらしい。
「いやー、フローネちゃんは見た目に寄らず、力持ちだなぁ!」
「あの岩猪を素手で仕留めるなんて、大したもんだ!」
村人たちは、俺のことを「か弱い美少女」ではなく、「怪力無双の銀髪娘」として認識しているようだった。…まあ、ある意味、間違ってはいないのかもしれないが、釈然としない。
(…身体能力は、まだ前世に遠く及ばないんだがな…)
薪割りも、畑仕事も、見張り台の補強も、前世の体力があれば造作もないことだ。
しかし、今のフローネの身体では、かなり骨が折れる。
汗だくになり、息を切らしながらなんとか作業をこなす日々。
それでも、村人たちの期待に応えようと、俺は黙々と作業を続けた。格闘技で培った身体操作の技術――効率的な力の使い方、重心移動、テコの原理の応用――などを駆使すれば、非力なこの身体でもある程度の力仕事はこなせた。
その様子が、村人たちには更に「怪力」に見えたらしい。
「フローネちゃん、斧の使い方も様になってるじゃないか!」
「石運びも、ひょいひょいと…信じられん」
(違う、そうじゃない…技術だと言ってるだろうが…)
内心で何度ツッコミを入れたことか。だが、説明したところで理解されるとも思えず、俺はただ黙って作業を続けた。
そんな日々の中で、俺はこの世界の「常識」について、少しずつ情報を集めていた。
村人たちの会話の端々から聞こえてくる言葉。
「魔法」「魔力」「スキル」「ステータス」「冒険者ギルド」「アストラ王国」……。
やはり、ここは俺のいた世界とは全く異なる、ファンタジーの世界のようだ。魔法が存在し、スキルやステータスといった概念があるらしい。そして、冒険者ギルドという組織があることも分かった。
(…魔法、か)
俺には、そういった力は一切感じられない。この身体は、魔力とは無縁のようだ。
スキルやステータスというのも、よく分からない。俺に見る方法はあるのだろうか?
そして、村人たちの会話の中に、時折、妙な違和感を覚えることがあった。
彼らが語る「強さ」の基準。それは、魔力の量であったり、強力なスキルであったり、高いステータス数値であったりする。
俺がロックボアを倒したことに対しても、「何か特殊なスキルでも持っているのか?」とか「もしかして、すごい怪力スキルとか?」といった憶測が飛び交っていた。
純粋な「技術」や「身体操作」によって強敵を打ち倒す、という発想が、彼らには希薄なように感じられた。
(…なるほどな。この世界では、物理的な戦闘技術は、あまり重要視されていない…のか?)
もしそうなら、俺の持つ総合格闘技の知識と技術は、この世界では異質であり、あるいは強力な武器になるかもしれない。
同時に、理解されにくい、ということでもあるが。
薪割りの手を止め、自分の拳を見つめた。
俺はこの拳で、この異世界を渡り歩いていく。
その覚悟が、少しずつ固まってきていた。




