パート4: 村長との対面
村長の家の中は、外観同様に質素だった。土間の奥にある板張りの間に、大きな木のテーブルが置かれ、壮年の夫婦と、初老の男性が食事をとっている最中だった。壮年の夫婦が村長夫妻で、初老の男性が先代の村長か、あるいはただの長老だろうか。
食卓には、黒っぽいパンと、野菜の煮込みのようなもの、そして干し肉らしきものが並んでいる。決して豪華ではないが、温かい食事がそこにあるというだけで、空腹の俺には魅力的に見えた。
「おお、これはこれは…珍しいお客さんじゃな」
中央に座っていた、恰幅の良い髭面の男――現村長だろう――が、俺たちを見て少し驚いた顔をした。特にリリアーナの身なりに目を見張っている。
「まあ、立ち話もなんじゃ。そこに座られい」
村長は、意外にも鷹揚な態度で席を勧めてくれた。
俺とリリアーナは、促されるままに丸椅子に腰を下ろす。
「わしがこのリルカ村の村長、バルガスじゃ。で、あんたさん方は?」
俺は簡潔に名乗る。
「フローネだ。こっちはリリアーナ」
リリアーナも緊張した面持ちで、小さく頭を下げた。
「リリアーナ、と申します…」
さすがにここでは貴族の名乗りは控えたようだ。賢明な判断だろう。
「フローネとリリアーナ…。して、お二人はどこから来なさった? 森で迷ったとのことじゃが…」
バルガス村長は、探るような目で俺たちを見た。
俺は事前にリリアーナと口裏を合わせていたわけではないが、正直に話すわけにもいかない。
「ああ。少し遠くの町から旅の途中だったんだが、森で道に迷ってしまってな。こいつとは、森の中で偶然出会った」
嘘ではないが、肝心な部分は伏せる。リリアーナが追われていたことには触れない。
「ふむ…」
村長は、俺の言葉を吟味するように黙り込んだ。隣に座る奥さんや、初老の男性も、無言で俺たちを見ている。疑われているのかもしれない。
沈黙を破ったのは、リリアーナだった。
「わ、私は…王都の方から…家の事情で、このリルカ村を目指しておりました。もし、ご迷惑でなければ、しばらくの間、こちらに滞在させていただけないでしょうか…?」
必死な声で訴える。
村長は、リリアーナの顔をじっと見つめた後、ふう、と息をついた。
「王都から、ねぇ…まあ、色々と事情があるんじゃろう。よそ者の滞在は、あまり歓迎できることではないんじゃが…」
言葉を濁す。やはり、簡単にはいかないようだ。辺境の村にとって、よそ者は厄介事の種になりかねない。
「…あんたたち、腹は減っとるじゃろ? とりあえず、これを食いなされ」
村長はそう言うと、奥さんに目配せした。奥さんは黙って頷き、俺たちの前にパンと煮込みの皿を置いてくれた。
俺は空腹には勝てず、「…すまない」と短く礼を言って、早速パンにかじりついた。硬くて少し酸味があるが、噛むほどに味が出る。煮込みも素朴だが、野菜の味がしっかりしていて美味い。転生してから初めての、まともな食事だ。
リリアーナも、最初は遠慮していたが、やがて小さな口で食べ始めた。
食事をしながら、村長がぽつりと言った。
「滞在の件じゃが…まあ、無下に追い返すわけにもいくまい。ただし、条件がある」
俺は食べる手を止め、村長を見た。
「条件?」
「うむ。この村も、人手が足りんでな。滞在するからには、村の仕事を手伝ってもらう。それなら、文句は言うまい」
バルガス村長は、にやりと笑って言った。
(…なるほどな。労働力として使う、と)
まあ、妥当な条件だろう。タダで厄介になるわけにもいかない。
問題は、俺に村の仕事ができるかどうかだが…。
俺は頷いた。
「…分かった。それでいい」
リリアーナも、こくりと頷いた。
こうして、俺たちのリルカ村での一時的な生活が始まることになった。
まずは情報収集だ。この世界のことを、少しでも知らなければ。




