パート3: リルカ村
森を抜けると、視界が一気に開けた。
目の前に広がっていたのは、想像していたよりも更に小さな、質素な村だった。木造の家が十数軒ほど肩を寄せ合うように建ち並び、畑がその周りを囲んでいる。村の中心には、簡素な見張り台のようなものも見えた。これがリルカ村か。
村の入り口には、粗末な木の柵が設けられており、槍を持った村人らしき男が二人、見張りに立っていた。彼らは森から現れた俺たち――特に泥まみれの上等なドレスを着たリリアーナと、その隣に立つ銀髪の少女(俺だ)の組み合わせに、怪訝な顔を向けた。
「お、おい…なんだ、あいつらは?」
「さあな…見ねえ顔だ。旅人か?」
警戒しながら、こちらを見ている。
無理もないだろう。
リリアーナは、俺の後ろに隠れるようにして、少し不安げな表情を浮かべていた。貴族令嬢として、こんな辺境の村に来るのは初めてなのかもしれない。
俺は構わず、見張りの男たちに近づいた。
「ここはリルカ村で間違いないか?」
ぶっきらぼうに尋ねる。
見張りの一人は、俺の見た目と口調のギャップに少し面食らったようだったが、すぐに気を取り直して答えた。
「あ、ああ…そうだが、あんたたちは…?」
「森で道に迷った。少し休ませてもらいたい。それと、この嬢ちゃんが、この村を目指していたらしい」
俺はリリアーナを示す。
見張りたちはリリアーナの姿を改めて見て、何かを察したようだった。
「…なるほどな。まあ、入れ。詳しい話は村長にしてくれ」
意外にも、あっさりと通してくれた。辺境の村だから、旅人には慣れているのかもしれない。あるいは、リリアーナの身なりから、厄介事の匂いを嗅ぎ取って、村長に判断を委ねたか。
村の中に入ると、数人の村人が畑仕事の手を止め、物珍しそうにこちらを見ていた。子供たちが遠巻きに指をさしている。どの顔も、日焼けし、生活に疲れたような色をしていた。決して裕福な村ではないのだろう。
見張りの一人に案内され、村で一番大きいと思われる家――村長の家へと向かう。
家の中からは、香ばしい匂いが漂ってきた。どうやら食事時のようだ。
(…腹が減ったな)
転生してから、まともなものを口にしていない。空腹感が、急に現実味を帯びてきた。
「村長、お客さんだ。森で迷ってた旅人と、お嬢様だ」
見張りの男が、家の扉を叩いて声をかける。
「ん? おお、入れ」
中から、しわがれた声が返ってきた。
俺とリリアーナは顔を見合わせ、少し緊張しながら、村長の家の中へと足を踏み入れた。
ここからが、情報収集の始まりだ。そして、この訳あり貴族令嬢をどうするか、決めなければならない。面倒だが、避けては通れないだろう。




