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終焉世界の記憶術師  作者: はじめ
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第二章:黒き刻印の魔女

頭が重い。まるで鉛を流し込まれたかのような感覚だった。意識が戻ると、冷たい石畳に仰向けに倒れていた。視界の端に、欠けた月が滲むように揺らいでいる。周囲には人の気配はなく、朽ち果てた建物が立ち並ぶばかりだった。


 ゆっくりと身を起こす。体が異常に軽い。手を握ったり開いたりすると、違和感に気づいた。手のひらの皮膚が荒れている。いや、それどころではない。


「……なんだ、これ……?」


 手の甲には奇妙な紋様が浮かび上がっていた。黒く、不規則に走る線が絡み合い、まるで呪いの刻印のようだった。触れると、ぴりっとした痛みが走る。


 見覚えはない。だが、なぜか懐かしい気がする。


 ――俺は、誰だ?


 思い出そうとすると、激しい頭痛が襲った。こめかみを押さえながら、ゆっくりと立ち上がる。ぼろぼろの服をまとった自分の姿が、近くに転がっていた割れた鏡の破片に映った。


 少年のように痩せた体。長く伸びた黒髪。そして、何よりもこの異様な刻印。


 混乱しながらも、周囲を見渡す。そこは、かつての都市の残骸だった。ビルは崩れ、車は錆びつき、街灯は根元から折れている。遠くで燻る炎が、夜の闇に赤黒い光を投げかけていた。


 何があったのか分からない。ただ、この世界が崩壊したことだけは確かだった。


「……まずは、情報を集めるか」


 ふらつく足取りで瓦礫の間を進む。腹が減っている。喉も渇いている。このままでは死ぬかもしれない。


 そう思った矢先、風に乗って甘い香りが漂ってきた。


 香りの元を探すと、朽ちかけた建物の中に、小さな灯りが揺れているのが見えた。壁には古びた看板がかかっていたが、文字は掠れて読めない。


 慎重に近づく。中に入ると、薄暗い空間に、一人の女が佇んでいた。


 黒いローブをまとい、フードの奥から鋭い視線がこちらを射抜く。彼女の前のテーブルには、湯気の立つティーカップと、黒い猫が丸まっていた。


「……ようこそ、迷える魂よ」


 低く囁くような声だった。


 警戒しながらも、一歩足を踏み入れる。


「ここは……?」


「安息の場、とでも言っておこうか」


 女はカップを傾けると、俺の手の甲をちらりと見た。


「その刻印……やはり、お前だったか」


 心臓が跳ねる。


「知ってるのか、この印を?」


「知っているとも。お前は、“黒き刻印の魔女”に選ばれた存在だ」


 その言葉に、寒気が走った。


「俺が……魔女?」


 女は小さく笑うと、カップを置いた。


「さあ、話をしよう。お前が何者で、なぜここにいるのか。そして、この崩れた世界において、お前が果たすべき役割についてな」


 彼女の指が宙をなぞると、淡い光の文字が浮かび上がる。


 それは、この世界の秘密を語る物語の幕開けだった。

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