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終焉世界の記憶術師  作者: はじめ
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第一章:黒の魔女団との遭遇

「魔法の暴走で崩壊した世界。記憶を読み取る力を持つ九条蓮は、生存のために身を隠していた。だが、黒の魔女団との遭遇をきっかけに、運命は大きく動き始める。終焉の時代を生き抜く記憶術師の物語。」


「崩壊後の世界を彷徨う九条蓮は、記憶を読み解く魔法を持っていた。だが、それは戦闘には向かない力。ある日、黒の魔女団と対峙した彼は、未知の脅威に巻き込まれることになる――。」

世界は終わっていた。

 少なくとも、俺が知っていた文明社会は。


 ビル群は朽ち果て、道路には草が生い茂り、街灯の明かりはとうに消えている。人間の姿はまばらで、生き残った者たちは徒党を組み、わずかに残された資源を奪い合いながら生き延びていた。


 魔法が世界を壊した。


 いや、正確には、魔法の暴走が世界を変えた。


 いつから魔法が存在したのかは誰にもわからない。ただ、ある日突然、都市の中心で光が弾け、世界はめちゃくちゃになった。重力が狂い、時空が歪み、生物の形が変わった。生き延びた人間は、魔法の力を持つ者と持たざる者に分かれ、争いが始まった。


 そして俺――九条蓮くじょうれんは、どちらにも属さない中途半端な存在だった。


 魔法は使える。だが、戦闘向きではない。


 俺の魔法は「記憶操作」。触れた物の記憶を読み取ることができるが、派手な攻撃も防御もできない。だから俺は、戦わずに生き残る道を選んだ。誰にも知られず、ひっそりと。


 けれど、それも限界だった。


 「おい、そこの男。ここは我ら“黒の魔女団”の領地だ。通行料を払え」


 錆びたガードレールの向こう、影の中から現れたのは数人の魔法使いだった。フード付きのコートに身を包み、杖や刃を手にしている。その中でも、真っ黒なローブをまとった女が一歩前に出た。


 「……通行料って?」

 「お前の持っている水か、食糧、もしくは……命だ」


 殺気を隠そうともしない目が、じっと俺を見つめている。


 逃げるか? いや、無理だ。相手は本物の魔法使い。しかも、ポストアポカリプスのこの世界で群れを作っている時点で、ただの雑魚ではない。


 「……なるほど。つまり、俺の選択肢は三つってわけか」


 ならば。


 俺は地面に手をつき、そっと呟いた。


 「《記憶解放》」


 瞬間、視界が歪む。


 大地に残る記憶が、俺の脳内に流れ込んできた。


 数時間前。この場所を通ったキャラバン。黒の魔女団に襲われ、抵抗する間もなく屠られた。悲鳴、血飛沫、奪われる食料。


 だが、その直後。


 「……この場所には、まだ“何か”がいる」


 情報が欠けている。


 キャラバンを襲った魔女たちが、なぜか全員撤退している。


 その理由は?


 「おい、何をブツブツ言って……」


 魔女の一人が杖を向ける。


 だが、その瞬間。


 「ギャアアアアアアアッ!!」


 聞いたこともない悲鳴が、闇の向こうから響いた。


 魔女団の仲間の一人が、突然何かに引きずられる。


 「な、なんだ!? 何が……!!」


 悲鳴。


 鈍い咀嚼音。


 魔法の光が一瞬だけ辺りを照らし出す。


 そして俺は、見た。


 歪な形をした巨大な影を。


 かつては人間だった何かを。


 「……“変異体”かよ」


 世界が壊れたあの日から、魔法の影響で異形へと変わり果てた存在。


 知能は低い。だが、本能だけで動き、人間を捕食する。


 それが、この場所にまだ潜んでいた。


 「クソッ、退け! 急げ!!」


 魔女たちが撤退を始める。


 俺も、躊躇うことなくその場を離れた。


 だが。


 「――お前、何者だ?」


 背後から聞こえた、静かな声。


 先ほどの黒いローブの魔女だった。


 魔女団の仲間たちが逃げる中、彼女だけは俺を見ていた。


 「……通りすがりの、ただの生存者だよ」


 俺はそう答え、足を止めなかった。


 だが、魔女は笑った。


 「そうか……なら、また会おう。次は、敵か味方か――どちらかの立場でな」


 その言葉を背に受けながら、俺は夜の闇へと紛れた。


 これは、終わった世界で生き残るための物語。


 そして――俺が魔女と関わる、最初の出来事だった。

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