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第二話 転移者の狂気

私は早速、町へ向かった。町に着くと、意外と遠くて夜になってしまった。瞬間移動で行けば良かった、と後から思った。

すると、私を見るなり人は、

「いやぁぁぁぁ!鬼だぁぁぁ!」

と叫んで去っていった。

どういうことなのだろう。私は鬼の見た目なのだろうか。すると、背後から嫌な気配がして振り返ると、異世界の勇者の格好をした男が剣で私を切ろうとしてきた。

「俺は勇者アクツだ!お前を殺してやる!」

そう言って剣を振り回して切りかかってくる。落下してくる途中になぜか獲得したスキル、『瞬間移動』を使っても、何とか避けるのがやっとなくらい速かった。

「や、やめて!殺さないで!私と同じ異世界人でしょ。あなた、阿久津たくみくんでしょ!?」

そう、彼はスマホをなぜか腰にかけていた。しかもそのスマホのケースは私が恋人の阿久津くんにあげたものだった。だから自分の彼氏だと確信したのだ。

「なぜ俺の名前を知っているのか知らないが、俺と同じ異世界人なわけあるかっ!鬼に転生するやつがいるわけねーだろ!分かったらとっとと死ね!」

「どうしてよ!?話くらい聞いてくれてもいいでしょ!?」

「鬼の話を聞く義務など俺には無いっ!とっととくたばれっ!」

(どうして、、、どうしてよ。)

少し熱血で正義感の強い彼ではあったが私からしたら一時は彼のためなら死んでもいいと思えたほど大好きだった。愛していた彼からそんなことを言われるなんて、ほのかからしたら、とても複雑で悲しい気持ちになった。しかし、相手がこっちを殺しにきているのならそんなことはいってられない。ほのかは、苦渋の決断でとりあえず一番最初にいた草原に『瞬間移動』でもどることにした。

 草原に戻るとほのかは、一人呆然と星空を眺めていた。

(阿久津くん、、どうして、、どうして私を裏切ったの。)

阿久津は前世でほのかが周りの人に軽蔑され、いじめられていたときに唯一ほのかのことを味方になって助けてくれた恩人のような存在でもあり、同じアニメが好きで、そのことについて二人で語ったりすることもあって、すごく楽しかった。そして、何より彼の正義感の強さにほのかはひかれていた。そして、気が付いたら恋に落ちていたのだ。つまり、阿久津はほのかにとって恩人でもあり、友達のような存在でもあり、恋人でもあった。その阿久津に裏切られた時の感情は何とも言えないとてもいろいろな感情が混ざった複雑な気持ちだった。

(悲しいような、憎みたいような、哀しいような、それでもそんな阿久津くんが愛おしいような、なんだろう、この複雑な気持ち。)

ほのかの心は今、今まで感じたことのない複雑などこにもぶつけようもない感情と、味方を失った喪失感とにとらわれていた。

「ねぇ、サアヤちゃんのこと、気になる?」

「え?」

急に今まで何の気配もなかった背後から声がかかった。

反射的に振り向いてみると、そこには、美しい(アメジスト)色の瞳で、絹のように美しい白髪を持った少年がたっていた。

「あなたは、、だれ?」

「あ、僕?名前はルキ。」

「ルキ、、、。」

(なんだか懐かしいような聞いたことがある名前、、。でも、思い出せないしなんだかこの子に関わっちゃだめな気がする。でも、)

そのルキというものが秘める気配(オーラ)のようなものは喪失感を胸に抱いていたほのかからするととても心地よいような堕ちるとこまで堕ちてしまいたくなるような不思議なものだった。

「で、サアヤちゃんがどうなったか、気になる?」

(とりあえず、話を聞いてみようかな、、、)

「うん。でもさっちゃんは大丈夫でしょ?」

(だってあの猫もそう言ってたし、、)

「あれま、あの猫にだまされちゃったの?可哀想に。」

「え?だまされた?どういうこと?」

「あのね、あの猫はね、君をこの世界に転生させるために嘘をついたんだよ。」

「え?うそ?どういうこと?」

信じてはいけない気がしたが、考えるよりも先に聞き返してしまった。

「サアヤちゃんはね、君があっちの世界で行方不明になったことを知ってね、自殺しちゃったんだよ。」

「え?」

(うそだ。そんな、、そんなわけない。だってさっちゃんは昨日まであんなに笑顔で私のそばにいてくれたじゃん。そんなわけないよ、ねえ、そんなわけないよね。)

「そんなわけあるんだよ。」

あの猫と同じように私の心の中をのぞき見したのだろうか、ルキは私の心を読んだかのようにそう言った。少し変な言葉だったが。

「うそ、だよね?」

「うそじゃない。何なら証拠として映像もあるよ。」

そう言ってルキはどこからともなくカメラを取り出してそこに映っている映像を私に見せてきた。

(さっちゃん、、!)

そこ映っていたのは友達、咲綾だった。咲綾は病院のベランダに出て、そこの手すりに足をかけて座り、

――飛び降りた。

「い、、、いや、、、うそでしょ、、」

ほのかは消え入りそうなか細い声でそう言った。

「いや、、うそだ、、、!嘘に決まってる!ねえ、この映像だって編集したものなんでしょ。ほんとはどこかで咲綾は無事に生きているんでしょ!?冗談なんでしょ!?ねえ、こんなつまらない冗談はやめてよ。。」

「ふふっ、残念だけどね、これは現実なんだよ?」

ほのかは手で頭を抱えて

「うそだ、うそだうそだ。そんなわけないそんなわけないもん。だって、咲綾は私のことを置いていかないって、一人にしないって言ってくれたじゃん。うそつき!咲綾のうそつき!」

そう言うと泣き崩れた。

その姿はあまりにも滑稽で哀れでルキからしたらたまらなく――《《愛おしい》》ものだった。

「ねえ、そんなに嘆かないでよ。やきもちを妬いちゃうよ。」

「え?」

その時、ほのかは耳を疑った。やきもちを妬く?何に?

「えっと、何に?」

「え、あ、今のは気にしないでいいよ。心の声がこぼれちゃっただけだから。」

「え?」

(言い間違えたのかな、、まあ相手も気にしないでって言ってるし気にしなくていい、、のかな。)

それよりも咲綾が死んだことはとてもほのかからしたら耐え難い苦痛だった。

でも、ほのかが堕ちるにはまだ至らなかった。なぜなら、ほのかには大切な家族がいたからだった。

「ねえ、あともう一つ教えてあげたいことがあるんだけど、これ見て。」

「何?」

今、見てはいけない気がした。だけれども、ほのかは好奇心を抑えることができずに見てしまった。

「、、、は、、?」

それは一瞬の出来事だった。

ほのかの家族たちが乗っている車が、道の横から来たトラックによって

―――はねられたのである。

それは一瞬だったのだが、ほのかからしたら永遠にも思えるコマ送りの映像を見ているようなそんな感じがした。

「これは、、、なんの、冗談?」

「冗談じゃないよー。」

ほのかは信じられないというような顔をして、

「ねえ、そんなこと言うのはやめてよ、ねえ、うそでしょ。うそなんでしょ!?」

「あはは、さっきから言ってるけどさー僕のこの映像は嘘じゃないよ、だって僕は君には嘘をつかない主義なんだよ。それに、そろそろ現実を認めたら―?」

ルキの発したその言葉は傷ついているほのかからしたらあまりにも、あまりにも痛かった。

「こんな、こんな映像証拠でも何でもないよ。もっと、もっとまともな証拠をだしなさいよ。じゃないと信じられないよ。」

「ふーん、そっか。なら今この映像に映ってた君の家族と友達?の遺体、あるけどみる?」

ほのかは怖かった。前世の両親や友のことを知っていてなおかつ彼ら(彼女ら)の死の瞬間を記録していた映像をもっているルキのことが。ルキならほんとうに家族の、友人の、遺体を出してしまうのではないか、という気さえした。というか、確信を持ってそう思えた。

しかし、本当に自分の家族や友達が死んでいるのかを知らずに一生を不安定な気持ちで送る方が、よっぽど耐え難かった。それに、少し意地になっているところもあって、

「見せてみなさいよ。」

と、言ってしまった。

「ほら。」

するとルキは本当に彼らの(彼女らの)遺体を見せてきた。

家族は血まみれで、友の肉体は原形をとどめていなくて、

―――――とても、ほのかからしたら地獄絵図のような光景だった。

「そ、、、そんな、どうし、、、どうして、よ。」

ほのかは、絶望した。深く、深く、深く。

ほのかは、堕ちた。どこまでも、どこまでも。

ほのかは狂った、狂って、狂って、狂った。

このまま消えてしまいそうなくらい、深い闇に堕ちた。

「あ、、、、あっはははははっははははっははは。」

ほのかは、どこか、壊れたような笑みをうかべて、笑った。

そこにルキのなんとも空気を読まない一言がきた。

「、、、、かわいい」

「、、、、なぁにが?」

何のことなんだろう。

「え?その姿がだよ。昔を思い出すなあ。――レナ。」

そう、ほのかの姿はもともとは黒い髪に茶色い瞳だったのだが、美しい白髪に虹色の瞳に変わっていて、その背中には、

―――――黒金の美しい天使のような形をした羽が生えていた。

「れ、、な。レナ。。そうだ、どうして忘れてたんだろう。私の名前はレナ。」

「ねえレナ、この世界を滅ぼしたい?」

そうだ、この世界はあまりにも理不尽で醜い。それなら、壊して壊して、何もかもを壊して、ここの人間たちいや、すべての生き物から、

―――すべてを奪ってやる。

それが、すべてを奪われたレナの思ったことだった。

「うん。この世界を滅ぼしてしまいたい。」

そう、レナは静かな声で言った。

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