1 現代の後宮
現代日本に後宮があることを知っている人間が一体、どれだけいるどろうか?私はあると想像すらしたことがなかった。そんな場所に今、私はいる。
「それでは西門ふみのさん。以上で説明は終わりですが何か質問はございませんか?」
「あの…」
「はい?」
「スマホ…やっぱりだめですか?」
そうっと聞くとフゥとため息をついて先程この施設の説明をしてくれた宮内庁職員の山本さんはメガネを上げた。
「先程もご説明いたした通り、この施設でお過ごし頂くということは皇后になる可能性があるということです。そのためのストレス耐性テストも兼ねていると思ってください。」
他にご質問は?という山本さんの言葉に今度は「ありません」と答える。
「それでは、ふみの様。これより、半年間よろしくお願いいたします。」
山本さんは深々と頭を下げた。
私が選ばれたのはきっと、ただただ旧宮家と遠縁の親戚だからというそれだけだろう。一応私にもその血が流れている訳で中学生くらいの頃は「世が世ならお姫様だったのかな?」なんて考えたりもした。けれど繋がりがあるのはおばあちゃんなので、よくよく考えれば世が世でも普通の暮らしをしていたのだと分かってからは特に興味も持たなかった。
はずなのに。大学生になった今頃になって降って湧いたような話。まさか、皇后の候補になるなんて思ってもみなかった。けれど、これも経験だと開き直る。どうせ選ばれやしないんだから。
私はこれから宮内庁の職員や旧宮家の方々にレクチャーされ、お后教育を受ける。
そしてそれは、私だけでなく他にもいる候補者全員と共同で行う。期間中は同じ屋根の下だ。
中には旧宮家の子や平成天皇の玄孫なんかもいるらしい。そんな中に放り込まれるのは少し怖い気もするが、たった半年のこと。
それに、私にはこの半年の経験を元にやりたいこともある。その為にも何がなんでも放り出される訳にはいかないのだ。
しかし、この時の私はまだ知らない。この半年が波乱に満ちたものになることを。