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幸福の花は静かに笑う  作者: 武尾 さぬき
第2章 利害関係者(ステークホルダー)
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第6話 十色の力(後)-8

 ブレイヴ・ピラーの一室に運ばれてきて3日目、包帯をとってもらうとほとんど傷跡は残っていなかった。自然治癒力を増幅させるのが回復魔法だと聞いたが、その効果は思っていた以上だ。もうここを出ても大丈夫だとリンカさんは言ってくれた。




「もう大丈夫そうですね。おいしい血は大歓迎なんでまた怪我したら来てもらっていいですよー」




「ありがとうございました。また怪我するのは遠慮したいですが……」




 リンカさんの血の話は何回聞いてもひいてしまうが、この人のおかげでこんなに早く怪我が治ったのだ。誠心誠意感謝の気持ちを伝えた。





 ここで身体を休めている間にパララさんが一度お見舞いに来てくれた。彼女は私の無事を喜んだ後、ユージンのギルドで起こったことを教えてくれた。特にラナさんが魔法を使って相手を一掃した話は、興奮しながら形容詞を変えて何度も説明してくれた。




 サージェ氏もわずかな時間だが一度会いに来てくれた。私の容態を確認するとすぐに部屋を出て行こうとしたが、助けてくれたお礼を伝えると、「貴様のためにやったのではない」と一言言い残していった。




 カレンさんは「牙」という名のユージン率いるギルドからブリジットの情報を仕入れている旨を教えてくれた。




 だが、残念ながら居場所を特定できるに至る情報やその目的についてはわからないままだった。


 他にも、酒場の様子を教えてくれたりした。迷惑をかけて申し訳なく思う反面、普段通り営業していることに安堵した。戻ったらしっかりと埋め合わせをしなければ――。





 ブレイヴ・ピラーの本部を後にする時、日差しを背にしたその建物を振り返った。要塞を連想させる巨大な建物だ。元いた世界で例えると、大企業の本社ビルみたいなものだろうか。ここの幹部というのだからカレンさんは本当にすごい人なのだと改めて思う。




 酒場へ帰る道中は、ラナさんと会ったら最初になんと言おうかばかり考えていた。私の語彙力を総動員して謝罪とお礼を言おうと思っていたが、うまく口にできるか自信がない。




 街の大通りを歩きながら肩をまわしたり、腰をまわしたり、たまに跳んでみたりしながら身体の無事を念のために確かめる。傍から見ると変な人に見えたかもしれない。





 酒場が視界に入ると急に緊張してきた。ラナさんにどんな顔で挨拶をしていいか、ここにきてわからなくなってしまう。我ながら臆病な性格だと思いながら、意を決して中に入ろうとしたときに背後に人の気配を感じた。




 なんとたまたま外出していたのか、ラナさんがそこには立っていた。想定していない事態に一瞬言葉が出なかった。私は頬を掻いて下を向き言葉を探る。だが、先に彼女が言葉を発した。





「おかえりなさい、スガさん」





 ここに帰ってくる道中にあれこれ考えていたことがバカバカしく思えるような、とても晴れやかで優しい笑顔だった。


 たくさん謝って、もっとたくさんお礼を言わなければならない。それらが渋滞して頭が混乱している。ただ、今言うべき言葉だけはどうにか見つかった。





「ただいま戻りました、ラナさん」

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