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幸福の花は静かに笑う  作者: 武尾 さぬき
第2章 利害関係者(ステークホルダー)
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第6話 十色の力(後)-6

 私はその時の酒場の会話を思い出していた。そして今、その真意を理解した。




「あの時すでにスガが例の紹介所付近でなにか聞き込みしてるのは知ってたんだよ……。きっとパララちゃんの一件でスガなりに力になろうとしてるんだと私は思てった」




 カレンさんはここで言葉を区切り、間をおいてから続けた。




「――けど、それなら私やラナに先に話があってもおかしくないよね? ちょっと変に感じたから悪いけどかまかけてみたのさ。中央市場で見かけたなんて嘘っぱちだよ?」




 なるほど、あの時点ですでに気付かれていたのか。




 うまくやれていると思っていたのはどうやら私だけだったらしい。




 誰にも迷惑をかけないようひとりでやっているつもりが、実は筒抜けで最後には助けてもらっているのだ。つくづく自分が情けなかった。カレンさんになぜひとりでやっていたのか、を尋ねられた。どう話したらいいか迷う。




「――ひとりでなんとかしたかったんです」




「うん?」




 カレンさんは顔は真剣ながらも首を傾げていた。




「カレンさんはとても高名な剣士です。パララさんも魔法使いとしてとても才能のある方のようです……。ラナさんも実はとんでもない魔法使いだと知りました」




「うーん……、まぁそうなのかもね」




「皆さんに囲まれていると……、なんというか自分がとてもちっぽけな存在に思えてきまして――、誰にも頼らずなにかをやってのけたいと思ってしまったんです」




 最初はなにかカレンさんを納得させられるような嘘をつこうと思っていた。だが、考えた末に口からこぼれた話は嘘ではなかった。




 ブリジットをひとりで探そうとした動機のすべてがこれではない。それでもその何割かを占めていたのは事実だ。





 こちらの世界に来て、自分で仕事の依頼を受けたりしながらうまくやっているつもりでいた。しかし実際は周りの人に頼り、助けられてばかりいるのだ。




 頼ることが当たり前になっている自分が嫌になっていた。カレンさんはなにも言わずにしばらく私を見つめた後、顔を上にあげて息を吐きだした。




「今回、スガを助けるために私とラナ、パララちゃんにブルードさん……、あとサージェも手を貸してくれた」




 私は今の話を聞いて、ようやくここにラナさんがいた理由を理解した。




 最初は傷を負った私のお見舞いのような感じだと思っていたのだが、そもそも救出の時にラナさんもいたのか。そして他にも私が思っていた以上にたくさんの人の名前が飛び出した。




「私が誘ったんじゃないよ。ラナもパララちゃんもブルードさんも、スガが危ないと知ったら私と一緒に行くって言ったんだ。まだどういう状況かきちんをわかってない時だよ。まぁ、サージェはおまけだったかもだけどねぇ?」




 カレンさんは改めて視線を私に戻した。




「たしかにスガはひとりで戦える人間じゃないね……。逆に私たちならこうなる前に自力でなんとかしてたとも思うよ?」




 彼女は私の頭の包帯を指差していた。




「けどさ……。スガのためにみんながこうして力を貸してくれた。これがスガの『力』なんじゃないかな?」





 これが私の力?




「剣術も腕力も『力』、魔法も『力』……。けど人の『力』ってこういうのだけじゃないだろ? あんたを助けたいってみんなが思うのは、スガの『力』なんだと私は思うよ」




 私は無意識に自分の両掌を見つめていた。非力な手だ。




「スガじゃなかったらみんな手を貸してくれなかったと思う。これってすごいことじゃない? まぁ最初から自分で助けを求めろよってところはあるけどねぇ」




 カレンさんの顔は今まで見た彼女のどの笑顔よりも優しい表情をしていた。




「す…すみません。私は……、勝手に暴走してしまって――」




「謝らなくていい、けどきちんと礼は言いな! あと、私以外にはちゃんと謝ってお礼をしときなよ?」




 カレンさんが年上のお姉さんのように見えてきた。私は諭される子どものようだ。たしか私の方がわずかに年上だったはずなのだが……。




「はい、ありがとうございます。カレンさん!」




「また明日にでも話聞きに来るからさ、今は安静にしてな。そして、スガは人を頼れ! 頼って人を動かせるのは立派なあんたの『力』だよ」




 彼女は私に人差し指を向けると、くるりとまわって部屋を出て行ってしまった。私は彼女の背中を見送りながら、自分の迷走を恥ずかしく思った。怪我をしっかりと治した後にみんなに謝って……、しっかりとお礼を言おうと心に決めた。

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