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幸福の花は静かに笑う  作者: 武尾 さぬき
第2章 利害関係者(ステークホルダー)
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第6話 十色の力(後)-5

 眠くはなかったので医務室のベッドに腰をかけて考え事をしていた。ブレイヴ・ピラーの施設にいるのなら助けてくれたのはカレンさんでほぼ間違いないだろう。




 どういう経緯で助けられたのかわからなかったが、いろいろ訊かれるだろうな。そう考えていると、部屋の外から足音が近づいてきた。同時に話し声も聞こえる。何人かが一緒に来たようだ。




 ノックの音が響いたが、返事をする前に扉は開けられていた。先ほどのリンカさん、そしてカレンさん……、その後ろにラナさんの姿が見えた。これは想定していなかった。




「スガぁ、具合はどうだい? 私が誰かわかるかい?」




 カレンさんはいつも通り少しふざけた感じで話しかけてきた。私はとりあえず多少の痛みはあるものの普通に動ける旨を伝えた。すると、後ろにいたラナさんが私の目の前まで歩み寄ってきた。彼女にもきっと余計な心配と迷惑をかけたのだろう。




 まずは謝らないと、と口を開こうとした時、私の頬に衝撃が走った。




 ラナさんに叩かれたと理解するまで何秒かかった。




 宙に浮いた視線をラナさんに戻した時、彼女は下を向いていた。





「とても……、とても心配しました」





 気付くと彼女は私の右手を両手で握っていた。なにか感触を確かめるかのように何度も握りなおしている。私はなんと言っていいかわからず無言になってしまった。口を何度か開いてなにか言おうとしたが言葉が見つからない。




 すると、彼女は顔をあげた。その表情はいつもの笑顔だった。




「何日か安静にしていないといけませんからね……。酒場で待っていますよ」




 そう言うと彼女は先に部屋を出て行ってしまった。カレンさんは視線で追っていたが、追いかけはしなかった。




「大丈夫ですか? 怪我人に暴力は遠慮してほしいですよねー」




 リンカさんは私の顔を覗き込みながらそう言った。




「カレンが許可とってくれたみたいなので、しばらくここでゆっくり休んでってくださーい」




 リンカさんはカレンさんの目を見た後に出て行ってしまった。部屋に私とカレンさんだけが残された。




「さてと……スガ、私も一発いれてやりたいところだけどラナのが効いてそうだからやめとくよ?」




「カレンさんに殴られたら入院が長引きそうですからね」




「ははっ……、そういうこと言えるなら頭も無事みたいだね」




「ええ……、いろいろご迷惑をおかけしたようですね」




「まったくだよ……。ラナのビンタを心に刻んどきな。あの子が人をぶつなんて滅多にないからねぇ」




 ラナさんの平手はたしかに身体より心への痛みが大きかった。気絶する前にずいぶんと殴られ蹴られした記憶はあるが、そのどれよりも後に引きそうな痛みだ。




「まぁ何日かここで休んでいきなよ? リンカは変人だけど治癒の腕前は一流だしね」




 「変人」のワードで、血がどうこう言っていたのを思い出す。たしかにあれを聞くと変人と言われて否定できない。




「少しずつでいいけど……、スガには聞きたいことがたくさんある。そっちも気絶してる間になにがあったか知りたいだろう?」




 カレンさんは真っすぐに私の目を見てそう言った。その青い瞳には隠し事はやめよう、と訴えてくるものがある。




 だが、私はブリジットに会おうとした目的だけは話さないでおこうと決めていた。異世界云々の話だけは自分の中だけに留めておこう、と。




 私は、ブリジットを探すため情報を集めていたところ、ユージンとその取り巻きに出会った旨を話した。




 彼女からは、パララさんがブリジットと出会った仕事の紹介所にはブレイヴ・ピラーの見張りが付いていて、私の不審な行動はそこから判明したと聞かされた。




 私はブリジットを見つけるために思いついた方法についてなど様々な話をした。しかし、これを聞いているカレンさんの反応はとても薄かった。




「スガさぁ……、私が聞きたいのはそこじゃないよ? なぜ私たちに隠してたかってことさ?」




「――話すきっかけがなかっただけです。隠していたわけでは」


「違うね……、覚えてるかい? 酒場で私がスガを中央市場のあたりで見かけたって話したこと?」

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