表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幸福の花は静かに笑う  作者: 武尾 さぬき
第2章 利害関係者(ステークホルダー)
95/214

第6話 十色の力(後)-4

「パララちゃんの魔法を合図にサージェが動く。任せたよ」





 私は小さく頷くと最速で呪文詠唱をしました。




 前にいる怖い人たちが魔法の発動に気付いたようですが、この程度なら彼らが動き出す前に発動させられます。





「ブライトッ!」





 私の杖は強烈な光を発しました。まるで外の稲光を今だけ借りてきたかのような光です。何人かの驚いた声が聞こえました。




 この魔法自体は単なる目くらましです。ただ、こうした屋内ではより効果を発揮します。わずかな隙をつくるには最適な魔法でした。




 光が消えた時、サージェさんはユタタさんを抱き抱えてこちらに滑り込んできました。それに気づいてか、人相の悪い人たちがより怖い顔をしてこちらに向かってなにか言ってきています。ただ、今はその内容はどうでもいいと思い、ほとんど耳に入りませんでした。




「気絶しているようですが、息はあります。ですが、怪我はひどいようです。早急に治療が必要かと……」




 サージェさんはユタタさんを抱えたままカレンさんにそう告げました。




「ブルードさん、スガを抱えて駅まで走ってくれるかい? うちから人をまわして本部の救護室まで案内させるからさ」




 サージェさんが無言で頷いていました。きっと魔法の写し紙で手配を済ませているのだと思います。




 付き添いで来てくれたブルードさんはサージェさんに代わってユタタさんを抱えました。ブルードさんがとても大きいので相対的にユタタさんが小さく、子どもを抱っこしてるみたいに見えました。


 ブルードさんはスガさんの身体の傷を見て表情を歪めました。小さい声で「ひでぇ」と聞こえました。




「……駅まで走ったらいいんだな。任せろ」




「ありがとう。後ろは気にしなくていいよ、後を追うやつがいたら私がぶった斬る」




 カレンさんは腰にかけた2本の剣に手をかけていました。いつでも抜く準備ができているのだと思います。




「待てコラ……、いきなり乗り込んできて客人さらっといてなに勝手に話進めてんだ?」




 怖い人たちの真ん中にいる眼鏡の人が声を上げました。大きな声ではなかったのですが、威圧を感じる低い声がこちらまで届きました。




「ユージンさんとこは客人にずいぶん乱暴なもてなしするんだねぇ、驚いたよ?」




 どうやら眼鏡の人が話に聞いていた「ユージン」という人のようです。




「その男への用はまだ済んでいないんです。こちらに返してくれませんか、金獅子カレン様?」





「ブルードさん、気にせず行って」





 カレンさんが小声でそう言うとブルードさんは先ほど開けた鉄扉へ向かって走り出しました。前にいる人たちは追いかける素振りを見せましたが、カレンさんとサージェさんが武器に手をやり、睨みつけるとそれは止まりました。




「……いきなり乗り込んできて、てめえらただで済むと思ってんのか?」




 ユージンという人は怒りを露わにしてこっちを見てきました。周りの人たちが武器を手にしているのも見えます。杖を握る手がいつの間にか汗ばんでいました。




「ふぅん……、手ぇ出してくれるのかい? うれしいね……。私も暴れずに帰れる気分じゃないからねぇ」




 カレンさんの目つきは獣のようにギラギラしていました。まるで猟犬……いいえ、これが「獅子」なのかもしれません。私はその奥に怒りの炎が宿っているのを感じました。とても冷静に……、カレンさんは怒っているのだと思いました。




「――カレン様、まわりのザコは自分が引き受けます」




 サージェさんが周りの人たちにも聞こえる声でそう言いました。顔の怖い人たちの表情がさらに怒りで歪んだのがわかりました。




「任せるよサージェ……。まあ私が相手なら全員ザコなんだけどねぇ」




 いつの間にかユージンという人も剣を抜いていました。




「パララちゃん……、サージェの援護をお願いね?」




「はい、わかりました!」




「サージェ……、相手が剣を抜いたらどうするんだっけ?」




「刃を向けるは覚悟の意志……。殺すつもりで戦え、です」




 カレンさんとサージェさんが前を向きながら話していました。




「惜しいね、サージェ……。『殺すつもり』じゃない、『殺せ』だ」




 一触即発の空気が流れていました。私も魔法をいつでも発動できるよう詠唱の準備をしています。





「ちょっとだけ――、耳を塞いでてくれますか?」





 ここに着いてからずっと沈黙して後ろにいたラナさんが前に歩み出てそう言いました。




 その時、精霊のざわめきを感じました。




 魔法が近くで発動する際、精霊の躍動や魔力の収束は術者以外でも感じとることができます。それによって詠唱の短い簡易な魔法でも発動を予期して対処できたりするのです。




 ――ですが、今回は違いました。




 「超」がつくほどの強大な魔力が一瞬でこの場に収束したのがわかりました。そしてこれまで無表情だったラナさんの口元がわずかに緩んだように見えました。





 その刹那、私は放たれる魔法がわかりました。




 ですが、この魔法は普通、詠唱にかなりの時間を要します。もしこの一瞬でその発動過程をクリアしたのならもはやそれは神業の域でした。耳を塞ぐ前にラナさんの声が小さく聞こえました。





「ライトニングレイ」





 強い光がすべてを包み込みました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ