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幸福の花は静かに笑う  作者: 武尾 さぬき
第1章 異世界営業
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第1話 薬草の販売-9

「ありがとうございます!」




 私は店主に深々と頭を下げ、精一杯の感謝を示した。突然の訪問から初対面の人間の提案など簡単にのんでくれるはずがない。


 もちろん私も相応の準備していったつもりではあるが、それでも最初の訪問から結果を得られるとは思っていなかった。驚きと嬉しさが一緒に込み上げてくる。




 その日のうちに私はオット氏に会いに行き、薬草の買い取り先が決まった旨を伝えた。彼は大きく目を見開き、本当ですか?、と大声を上げた。調剤屋との商談内容を伝え、すぐに納品に行くよう話をつけた。




 さらに昨日の夜、店のゴミから使えそうな柑橘の皮を()けていたので、それをまとめて調剤屋へ届けにいった。これに関しては材料費がまったくかかっていないのも大きい。




 そしてもうひとつ、店主に最後に話した薬草を安く仕入れる方法も伝えた。これは薬を卸している店に薬草の回収箱を設置する方法だ。




 カレンさんの話だと薬草を常備している冒険家は多いらしい。ただ、それは少ない量を持ち歩いていて、鮮度がおちたら買い直しをしているという。使い切る、よりも鮮度の問題で入れ替えが多いようだ。




 ならばいっそのこと、買い替える時に薬草専用の回収箱を設置して捨ててもらえば、そこから鮮度のおちた薬草を無料で回収できる。




 牛乳パックやインクカートリッジの回収箱からヒントを得た発想だ。これには調剤屋の店主も、妙案だね、と賛同してくれた。





 オット氏に5,000ゴールド渡し、彼はそれを道具屋の店主に渡した。これで彼がクビになることはないだろう。残り5,000ゴールドは私の報酬としてもらったが、その内の半分はラナさんに納める約束だ。


 こちらの世界に来てからお世話になりっぱなしだったので、ようやく少しだけ恩返しができたような気がする。




「あの量の薬草を全部売り切ったんですね。スガさんすごいですよ!」




 ラナさんは口をUの字に曲げた笑顔で、様々な形容詞を使って私を称えてくれた。約束の報酬と手元に残った香り付きの虫よけ薬のサンプルもついでにプレゼントした。




 その夜、いつも通りお酒を飲みに来たカレンさんにも同じくサンプルを手渡してみた。彼女は早速、薬を手の甲に少し塗った後、顔に近づけ鼻をひくひくと動かして香りを嗅いでいた。




「うん……、いい香りだね。ありがとう」




「いいえ、カレンさんのおかげで仕事がうまくいったようなものですから」




「ふーん……、しっかしこんなプレゼントをくれるとは……。やっぱりこの前、街で会った時の私、汗臭かったのかい?」




 少し照れたような顔をしてカレンさんはそう尋ねてきた。




「いいえ、とんでもない。距離をとられたのは正直ちょっと凹みましたけど……」




「あはは、お固い奴だと思っていたけど案外おもしろいねぇ。スガは?」




 やはりあの時は汗の臭いを気にしていたようだ。カレンさんに避けられていないとわかって私は内心ホッとしていた。

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