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幸福の花は静かに笑う  作者: 武尾 さぬき
第2章 利害関係者(ステークホルダー)
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第6話 十色の力(前)-9

 ――2日後。




 魔法の写し紙が淡い光を放っていた。まるで誰かがここに来て一筆書いていったかのように、はっきりとした文字が浮かび上がっている。私はその文字を読みながら息をのんだ。そこには、ブリジットとアポイントがとれたこと、そしてその場所と時間が記されていたからだ。




 まず考えたのはこの内容が真実かどうかだ。本当にブリジットと連絡をとれたのなら「カミル」という人間との約束がそもそも嘘だとばれてしまう。そう考えると、ここにある場所に誘い出しお金を奪い取る気でいるのか……。




 だが、それなら前回ブリジットの居場所に案内する、と言ってお金を持って来させたらよかったのではないだろうか? あえて時間を空けて連絡手段も渡してきたのを考えると、本当にブリジットと連絡をつけてくれた可能性もある。




 彼と接触するのが私の目的だ。そこを考えると多少のリスクを冒してでもこの誘いにのるべきなのだろう。――となると、結局危険な状況に陥った時にどうするかが最大の課題になってしまうのだ。





 先日は危なくなったら逃げたらいいと思っていた。だが、その「逃げる」すら叶わなかった。どうにか交渉できる場に持ち込めば、相手の利害を汲み取とった提案をできるかもしれない。


 私はこの先に想定される場面を頭の中でいくつもシミュレーションしてみた。脳内ではいろいろと機転がきいたりするのだが、現実の私はそこまで器用ではない。





 指定された時間は運よく酒場が閉まるときだった。路面電車の駅まで行ったらそこから目的の場所までは案内してくれる旨が記されている。


 酒場周辺の地理にはずいぶんと詳しくなったが、数駅離れるとまったく土地勘がなくなる。私にとって道案内は非常にありがたかった。




 約束の場所近くの駅は酒場の最寄駅からは遠く、路面電車に乗って見慣れない外の景色を眺めながら向かった。




 以前にこの国の地図を見せてもらったことがある。大きな分度器のようなかたちをしており、ちょうど90度にあたるところに王城と大きな城下町があった。ラナさんの酒場は30度あたりのところにあり、今向かっているところは120度付近のところに位置している。




 酒場と王城のある駅までの範囲は何度も行き来していたが、それより先にはほとんど行った経験がない。聞いた話では、大きな魔法ギルド関係の本部はほとんどそちら側にあるという。




 外をぼんやり眺めていると窓に水滴がぽつぽつと当たっていた。見上げてみると灰色をした雲が広がっている。傘を持っていなかったので、このまま雨の勢いが増してくると困るな、と思った。




 そうこう考えているうちに目的の駅までたどり着く。電車から降りると湿った蒸し暑い空気がまとわりついてきた。雨はまだ気にならない程度しか降っていなかったが、空模様はまだまだ降りやまないことを告げている。

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