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幸福の花は静かに笑う  作者: 武尾 さぬき
第2章 利害関係者(ステークホルダー)
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第5話 悪意の火種(後)-6

 パララ・サルーンについて調べ上げた報告をシャネイラは聞いていた。彼女の情報で共通しているのは皆「詳しくは知らない」、「仲がよかったわけではない」と前置きが入ることだ。


 彼女の人間関係の希薄さが窺える内容だった。そして皆が口を揃えて言うのがもうひとつ、「魔法に関しては天才的」ということ。セントラルの教授すらがそう語っていたという。





◆◆◆





 ラナの酒場から私たちは本部に帰ってきた。夜にまた酒場に顔を出せたらあの子とスガに謝らないといけない。こちらが聞きたいだけ一方的に聞いて質問には答えず……で、出ていってしまった。もっともパララちゃんの現状を詳しく話せないのは仕方がないところもある。




 酒場を訪れる前の段階で、パララちゃんが出入りしていた紹介所や喫茶店での聞き込みは終わっていた。


 紹介所の主人はパララちゃんのことこそ話してくれたが、ブリジットという男に関しては知らないの一点張りだった。それが本当かは怪しいが、それ以上聞き出せそうもなかったらしい。




 喫茶店の方はウエイトレスが2人を覚えていた。話の内容までは聞いていないが、数回に渡ってパララちゃんとブリジットと思われる男が会って話しているところを見たという。





 これでパララちゃんがつくり話をしているわけではないとわかるはずだ。私は最初から彼女が嘘をついているとは思っていないが、他の人間を納得させるにはそれなりの材料がいる。ラナとスガの話もパララちゃんの話を裏付けるものとなった。




 早くパララちゃんを解放してあげたい。




 シャネイラとグロイツェルと私は再び本部の会議室に入った。私は席につく前に2人へ言った。




「パララちゃんの話に嘘がないのはわかっただろう? 『ブリジット』とかいう男に利用されたんだよ」




「仮にそうだとして……、ブリジットという者の目的がわからない。わざわざ『やどりき』の名前を使って魔鉱石の輸送を邪魔する理由はなんなのか」




 グロイツェルは席に座って腕組みをしている。シャネイラもゆっくりとした所作で席についた。





「詳しくは私もわかりかねますが……、きっと『火種』ですね」





 シャネイラがそう言うとグロイツェルは顔を上げた。




「火種――、とは?」




「今回の件、あのパララという魔法使いは利用されただけでしょう。そして『やどりき』自体も無関係と考えるべきです。ただ、私たちブレイヴ・ピラー、そして魔鉱石の輸送隊自体は王国のもの、そして『やどりき』……、ここに火種を撒きたいのではないでしょうか?」




 シャネイラの言いたいことはなんとなくわかった。きっと、大きい組織や国との関係を壊したいやつがいるのだろう。




「私たちと『やどりき』の関係を悪くさせたいってかい? それにしてはやり方がずいぶん雑だねぇ。パララちゃんがやどりき所属でないことなんて調べたらすぐにわかるしさ――」




「雑で、いいのかもしれませんね」




「マスターは今回の件、なにか心当たりがあるのですか?」




「いいえ……。ただ、近頃私たちのギルドに限らずこれと似た話をいくつか耳にしております。もっとも、魔法使いが襲撃してくる、ほどの大事はこれが初ですが」




「似たような話ってどういうのだい?」




「どこかのギルド所属の人間が、別のギルドの誰かの仕事を邪魔した、とかそういう話です」




「そういえば、私も噂程度ですが似た話を耳にしております」




「どれも詳しく調べたら、勘違いであったり雇われの盗賊の仕業であったりとギルド間での争いは起こっていない……。一つひとつは今回と同様に雑な内容なのです。ただ、そういったことは解決したとしてもいらぬ邪推を招きます」




「それが……、『火種』ってことかい?」




「ええ。今回の件も私たちと『やどりき』にはなにもありません。ですが、我々全員が、そしてやどりきの者全員が同じように思うでしょうか?」




「口には出さなくとも、『やどりき』を疑う者がいないと言い切れません。それは、やどりき側も同様でしょう。我々が理由をつけて向こうに圧をかけようとしていると考えている者もいると思います」




 剣士ギルドも魔法ギルドも国の中で勢力争いがある。私はそういうのには疎い方だが、グロイツェルはそれらを敏感に感じ取っている。




「そう、一つひとつは小さな……、すぐに消せる火種。ですが、どこかで消えずにくすぶっているものもあるかもしれない。そういう火種を撒こうとしている者がいると、私は思っています」




「それがブリジットって男なのかねぇ……」




「その男が首謀者なのか……。それとも末端のものなのか、それとも利用されているだけのものなのか。今はなんとも言えませんが、警戒しておいたほうがよさそうですね」




 なにかきな臭い感じがする。こればっかりはこちらの杞憂であると思いたい。




「それよりシャネイラ、パララちゃんの疑惑は晴れただろう。解放してやってくれないか?」




「――そうですね、カレン。彼女をここへ連れてきてもらえますか?」




「マスター。さすがに解放するにはまだ情報が少ないと思いますが?」




「構いません。あの子をこれ以上拘束してもなにもでないでしょう」





 私はシャネイラの気が変わる前にパララちゃんのいる個室へと急いだ。彼女は鉄越しのはまった窓からぼんやりと外を眺めていた。




「パララちゃん、お待たせ! ここから出られそうだよ!」




「ほっほ…ほ、本当ですか?」




 彼女はいつもよりか細い声でそう答えた。私はギルドマスターのシャネイラが許可を出したことを話しながら足早に会議室へ戻った。パララちゃんの手をぐいぐいと引いて歩く。どうにも気持ちがはやってしまっていた。


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