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幸福の花は静かに笑う  作者: 武尾 さぬき
第2章 利害関係者(ステークホルダー)
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第5話 悪意の火種(後)-4

 私が外へ出て戻らないのを気にしてか、酒場の扉が開いてラナさんが出てきた。そして次の瞬間、彼女の顔が明らかに不機嫌な表情へと変わった。こんな顔をするラナさんを私は初めて見た。




「スガさんがなかなか戻ってこないし、お店の前に人がいるようで気になって出てきたら……、これは一体何事ですか?」




 ラナさんの目はギルドマスターのシャネイラ氏に向けられている。この2人は知り合いなのだろうか。




「ごめんよ、ラナ。騒がしくするつもりはなかったんだけどねぇ……。ちょっと2人にパララちゃんのことで話を聞きに来ただけなんだけど――」




 カレンさんが申し訳なさそうにラナさんとシャネイラ氏の間に入った。




「申し訳ありません、ラナンキュラス。護衛を伴ってきてしまったので騒がせてしまいましたね?」




「あなたに護衛なんてまったく必要ないと、ボクは思いますけどね?」




「フフフ、もっともです。カレンが言った通り今日はパララという魔法使いについて話を聞きに来ただけです。護衛の者は外で待たせますから、私とカレン、グロイツェルの3人だけ店に入れてもらうことはできますか?」




 シャネイラ氏がそういうとグロイツェル氏が前に出てラナさんに一礼をした。




「『ブレイヴ・ピラー』のグロイツェルです。お初にお目にかかります。ラナンキュラス様」




「はじめまして……。ボクのことはラナでいいです。それに慣れておりますので」




 いつになくラナさんの口調は厳しかった。このシャネイラ氏とはきっとなにかあるのだろう。カレンさんが横で頭を抱えるような仕草をしている。こうなることがわかっていたような雰囲気だ。




「――よくわかりませんが、剣士ギルドを代表する方々がお揃いで、パララさんの話を聞きに来たのは気になります。中でお話しましょう」




 そう言ってラナさんは酒場の扉を大きく開けて中へ入っていった。カレンさん、グロイツェル氏、シャネイラ氏も続いて中へ入り、残りの人たちはそのまま外で待っているようだ。サージェ氏と目があったので軽く会釈をしたが、向こうの反応は薄かった。





 私も続けて店に入り、「close」の札を出して扉を閉めた。




 ラナさんは厨房でブルードさんと話をしている。ブルードさんは頭をかきながら頷いていた。少し込み入った話をする旨を伝えているようだ。


 ブレイヴ・ピラーの3人は4人用のテーブル席に腰かけていた。上座にシャネイラ氏が座りその横にグロイツェル氏、カレンさんはその横に立っていた。こちらにやってきたラナさんはシャネイラ氏の正面に座った。




「スガもその横座んなよ。私はここでいいからさ」




 カレンさんにラナさんの隣りの席を指されたのでそこに座った。横目でラナさんの顔を伺ったが、やはり機嫌が悪そうだ。




「それで……、パララさんになにかあったのですか?」




 ラナさんがまず話を切り出す。




「彼女は最近ここで魔法ギルドに所属するような話をしておりましたか?」




「今質問をしているのはボクです。先に答えてもらえませんか?」




 彼女の口調は私が聞いたことがないほどきついものだ。




「彼女の身に起こったことを調べるために私たちはここへ来ました。残念ながらこれ以上は今の段階ではお話できません。ですが、彼女にとっても私たちのギルドにとっても大事なことです。ラナンキュラス……、どうか協力をお願いします」




 ラナさんは大きく息をついた後に、話し始めた。




「――たしか『やどりき』に所属できそうという話をしてました。ボクとここにいるスガさんでその話は聞いています」




「……その話、詳しくお願いできますか?」




 私とラナさんは、パララさんがここにきて話していた内容を2人で確認しながら伝えていった。パララさんになにがあったのかわからないが、ここを訪れている人たちを考えると只事ではないことだけは理解できた。




「ふむ……、ありがとうございます。パララ・サルーンは元々ここには仕事を探しに来たのですか?」




「ええ、最初に知り合った時はそうでしたね」




「差し支えなければ、お二人から見て彼女がどのような人か、教えてもらってもよいですか?」




 私とラナさんはお互いに顔を見合わせた。




「その質問には一体どのような意味が?」




「私たちはパララという女性についてあまり知りません。彼女のことを知る人から率直な意見を聞きたいだけです」




「ボクたちも最近知り合った関係ですから……、詳しくはわかりませんが?」




「お二人から見ての印象で構いませんよ。ただ、彼女の人物像を知るために意見をお聞きしたいのです」




 私は出会った時からの印象をそのまま話すことにした。少なくとも私の中でパララさんに対して悪い印象はまったくない。おそらくラナさんも同じではないだろうか。




「他人と関わるのが苦手な人だとは思います。本人もそう話していたくらいですから……。それを克服しようとここで努力していました。とても素直でいい人だと私は思っています」




 シャネイラ氏は私の方を見ていた。仮面の下はどんな表情をしているのだろうか?




「……わかりました。貴重なお話をありがとうございました」




 シャネイラ氏はそう言って立ち上がった。隣のグロイツェル氏も同じく席を立つ。




「パララさんになにがあったのかは教えてくれないんですか?」




 ラナさんが立ち去ろうとする彼らの背中に問いかける。




「今はまだ話せません……、が、心配はいりませんよ? 久々にお話しできてよかったです。ラナンキュラス」




 そう言い残すと2人は酒場から出ていった。カレンさんは申し訳なさそうな表情で軽く頭を下げて後を追っていく。ラナさんは扉をじっと見つめていた。その表情はとても険しかった。

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