第5話 悪意の火種(後)-3
酒場はいつも通り、お昼の時間帯を過ぎると客足が途絶えた。夜の営業に向けてブルードさんが仕込みを始めている。
「夜までお店を閉めましょうか? ボクたちも一休みしましょう」
「わかりました。『close』の札を出してきますね」
私は店の表に出て、念のため今から入ろうとしている人がいないか周囲を見渡した。すると遠目に5~6人ほどの団体の姿が目に入る。皆揃って軍服のような恰好をしている。どこか見覚えのある服装だ。
その先頭にはカレンさんらしき姿も見えた。
向こうもこちらに気付いたのか、私に視線を送っているように思えた。よく見るとサージェ氏や以前に競り市で出会ったグロイツェル氏も一緒にいる。
――ということは、あの団体はすべてカレンさんが所属しているギルドの人だろうか? 団体はカレンさんを先頭に真っすぐとこちらに向かってくるようだった。
「やぁ、スガ。ちょうどよかったよ。中にラナもいるかい?」
「こんにちは、カレンさん。今日は団体でお見えですか? ラナさんもいますよ」
「ラナも」、と言われたのが少し引っかかった。「も」ということは私も含めて用があるということだろうか。
「君は……、たしかいつかの競りで出会った武器商人の――」
グロイツェル氏も私の顔を覚えていたようだ。たしかに記憶に残る買い物ではあっただろう。
「改めまして、スガワラ・ユタカと申します。先日はありがとうございました。私は武器商人ではなく、人の商売のお手伝いをさせてもらっています」
「そういえば2人は顔合わせてるんだっけ? スガは普段ここの酒場で働いてるんだよ」
カレンさんが補足してくれた。
「そういえばカレンの知り合いと聞いていたな。私はグロイツェルと申します。カレンと同じ剣士ギルドに所属しているものです」
「お噂は伺っております」
「カレン、この方からも話を聞くのでしょう。でしたら私も紹介してもらえますか?」
私は思わず声の出所を探してしまった。あまりに独特の声だったからだ。まるでボイスチェンジャーを使っているような機械的な声で、そしてまったく抑揚がない話し方だ。
カレンさんが率いてきた集団の真ん中に鉄仮面で顔を覆った全身鎧の人がいた。見た目からは男か女かすらわからない。カレンさんは一瞬面倒くさそうな顔をした後に、私の方に向き直って話始めた。
「私の所属しているとこのギルドマスター、シャネイラだよ。今日はラナとスガに話を聞きたくてここまで来たんだ」
前にサージェ氏から話を聞いた「不死鳥」の異名をもつギルドマスターがこの人か……。――ということは、今ここにはブレイヴ・ピラーの3傑と呼ばれる人たちが勢ぞろいしているのか。
「カレン……、その話し方はもう少しどうにかならんものか?」
グロイツェル氏はため息交じりにそう言った。
「グロイツェル、構いませんよ? 初めまして、シャネイラと申します。スガワラさんと仰いましたか、カレンからお噂は窺っていますよ」
カレンさんはギルドマスターに私のことをどう話したのだろうか。気になるところではあった。
「は、初めまして。スガワラと申します」
このシャネイラという人は、顔も声も話し方からも感情が伝わってこない。なにか得も言われぬ不気味さを感じてしまう。




