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幸福の花は静かに笑う  作者: 武尾 さぬき
第2章 利害関係者(ステークホルダー)
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第5話 悪意の火種(前)-10

 そこは見通しの悪い木々に囲まれた道の途中でした。ブリジットさんはなにかを探すように周りを見まわしています。ここまで駆け足で来たので息を整えてから私は答えました。




「こっこ…こ、こんなところですか?」




「はい。そこの林の中に身を潜めましょう。細かいお話はそこでします」




 私は言われるがままにブリジットさんと共に林の中に入ってしゃがみ込みました。あまり人通りの多い道ではないようです。




「今回の依頼内容を簡潔にお伝えします。もうしばらくするとこの道に魔鉱石を運んだ馬車が通るはずです。その荷台を魔法で攻撃して下さい」




 声を潜めてこう説明を受けました。内容に驚いて私の返答は大きくなってしまいました。




「え…えっえ! いっ一体どういう――」




「パララさん、声をおとして下さい」




「は…はぃ…ごっごめんなさい。でも」




「よく聞いてください。私たちの狙いは魔鉱石を不法に採掘している盗賊団の馬車です。その足止めをするのが今回の任務です。パララさんは火属性の上級魔法が扱えるはずです。それを荷台にぶつけてください」




「とっと…盗賊のなんですか……? そっそれでも――」




「足止めをすれば後のことは他の者が処理します。すでに同じ依頼を受けた数名がこの周囲に隠れています。パララさんの仕事は最初の足止めだけです」




「そう…なんですか、私には全然わかりませんが……?」




「簡単に気付かれるようならそれこそ意味がないですからね?」




「たっ…たしかに…それは、その通りですね……。でも上級魔法を人に向けて使うのはちょっと」




「狙いはあくまで荷台です。それに――」




 ブリジットさんは一呼吸おいて続けました。




「セントラルで魔法使いの修練を積んだのでしたら、対人の訓練も受けているはずです。違いますか?」




 その通りでした。魔法使いという職業はまものに、あるいは物に、そしてときには人に向けて魔法を使います。そのための修練も当然行っているのです。





 魔法使いとして生きていくのは人を傷つける、場合によっては命を奪うことも考えなけらばならないと学んでいました。実際に攻撃魔法を撃ち合うような修練もあったりします。こうした状況がいずれ来ることも覚悟していたはずでした。




 その時、遠くから地鳴りのような音が聞こえてきました。その音は少しずつこちらへと近づいて来ています。





「どうやら標的が近づいて来たようですね。パララさん、準備はできていますか?」





 あまりに急でどうしていいかわからなかったのですが、どうやら迷っている時間も無さそうです。いえ――、迷うということは私の覚悟が足りていなかっただけなのです。今、ここで私は魔法使いとしての一歩を踏み出さないといけないと思いました。




「――わかりました。狙いは荷台ですね?」




 私は火の精霊と契約する呪文の詠唱を始めました。背中に背負った杖を触媒として魔力を増幅させる。冷静に……、セントラルにいた時より短時間で術式をほぼ完了できました。


 馬車の音が近く……、もうすぐ視界に現れることを告げています。もう迷いはありません。音が間近に聞こえ、馬車の荷台が目に映りました。





「ヴォルケーノっ!!」





 私の杖から発せられた火球は一直線に馬車の荷台へ向かって進み、そして閃光を放ちました。

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