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幸福の花は静かに笑う  作者: 武尾 さぬき
第1章 異世界営業
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第1話 薬草の販売-7

 手元に残っている薬草5個分をすりつぶして小さな空き瓶に詰めてみた。昨日の夜に自分の傷口に塗ったのはわずかな量だ。少しの量でもかなりの虫よけ効果が期待できそうだ。


 幸い、空き瓶はラナさんが捨てずにため込んでいるものがいくつかあったのでもらうことができた。




 これを薬草と同価格か、やや高値でも売ることができれば一気に捌けるかもしれない。競合する商品がなければどんどん売れるはずだ。




 やはり、別世界からきた私ならではの発想がここで活きてきた。早速オット氏に伝えようと小瓶を持って彼のいる道具屋に出かけた。




 しかし、虫よけ薬にして売る計画は早々に破綻してしまったのである。





「虫よけの薬なら売ってますよ」





 先日、あれだけ道具屋と薬屋をまわったのに見落としていた。話はさらにこう続いた。




「薬草が虫よけになるのは冒険家の間では有名な話です。彼らは山とか森とかによく入って行きますから。それに道具屋で売ってる虫よけの原材料は鮮度の悪くなった薬草が多いんですよ」




 虫よけ薬の材料が薬草ならつくっているところに売りにいけないか、と考えた。ところがどうやら鮮度がおちたものを安く買い取って材料にすることが多いらしい。どうしようもなくなったときには、そこに売りにいくことになるだろうか……。




 だが、それは当然赤字になる。今朝、すごい妙案が閃いた、と思った自分が恥ずかしくなった。やはりそう簡単に打開策が浮かぶわけではない。





 オット氏はこめかみの辺りを掻きながら軽くため息をついた。私が意気揚々とやってきたので薬草の売却先が見つかったと期待したのだろう。逆に落胆させてしまって申し訳ない気持ちだ。




 せっかくなので反省ついでにオット氏の働く道具屋の商品を細かく見せてもらった。なるほど、虫よけや日焼け止めなどの、私の感覚でいう「キャンプ用品」みたいなものが意外とたくさん売られている。


 RPGのような世界だからといって回復薬ばかり売っているわけではないらしい。





 ふと、商品を眺めているとき、昨日のカレンさんとのやりとりが頭に浮かんだ。




 虫よけにできる薬草……。




 ひょっとしたら……。




 頭の中にひとつ考えが浮かんだ。




 私はオット氏に虫よけ薬を生産している場所をきいた。いくつかあるらしいが、いわゆる工場のようなものはなく、手作業でつくられているようだ。私はその場所をメモしてもらい、足早に酒場に戻った。


 酒場ではブルードさんが料理の仕込みを始めている。私は彼に今、頭に浮かんだ()()()()があるか尋ねてみた。





「あぁ、それなら毎日使うからいっぱいあるぞ。今もここに少しあるけど、いるなら持って行くか?」




 私はお礼を言ってそれを受け取った。ブルードさんは、どうせ捨てるものだしな、と言った。倉庫兼自室の離れに戻り、小瓶のひとつから中身を一度小さいお皿に移し、ブルードさんにもらったものと混ぜ合わせる。できあがったものを手に塗り、今度はラナさんのところへ行く。




「ラナさん、お忙しいところすみません。少しだけよろしいですか?」




 彼女は酒場のカウンター奥で、新しく入ってきた仕事の依頼書に目を通しているところだった。振り返ると鼻のあたりまで垂れている長い前髪が軽くなびいて、また元の位置に戻った。




 私は彼女の顔の前に開いた手を突き出した。




「これをどう思いますか?」




 ラナさんは少し首を捻ったあとに私の真意に気付いたようだ。




 そして数秒目を瞑ったあとにこう言った。




「これは……、とてもいいですね」




 薬草を虫よけにする考えは失敗したかに見えた。しかし、今度はうまくいくかもしれない。

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