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幸福の花は静かに笑う  作者: 武尾 さぬき
第2章 利害関係者(ステークホルダー)
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第5話 悪意の火種(前)-3

 それから数日、パララさんが酒場に姿を現すことはなかった。私とラナさんは、彼女の魔法ギルド所属がどうなったのかを気にしていた。彼女がこのあたりに来るときは近くの宿に泊っているそうだが、実際にどこにいるかまではわからない。




 あの後どうなったのかを気にしながら酒場の仕事をしているとお昼時にカレンさんがやってきた。この時間帯に来るのは珍しい。そして、よく見るとその背中に隠れるようにパララさんの姿もあった。




「こんにちは。この時間に珍しいですね? それにパララさんもご一緒とは――」




「やぁスガ、ここに来たのはたまたま近くに来たからなんだけどねぇ……。パララちゃんが店の近くをうろうろしてたから連れてきたよ」




 パララさんは小さい子どもが親の背中に隠れるようにカレンさんの背中に隠れていた。カレンさんは一般の女性より体格が大きい。逆にパララさんは小さい方なので遠目に見ると本当の親子にでも見えそうな構図だ。




 しかし、今の話とここに来たパララさんの様子からすでに悪い予感がしていた。




「ついでだからなんか食べていこうかねぇ……。ラナぁ、私とパララちゃんになんか出しておくれよ?」




 厨房からラナさんが顔を出した。カレンさんはいつも通りカウンターに座り、その横にパララさんも座った。




「あらあら、この時間にそれも、二人一緒なんて珍しいわね?」




 ラナさんも私とほぼ同じことを言うと、パララさんの顔を覗き込んだ。彼女は無言で顔を上げない。先日の話が頭を過った。




「サンドウィッチでいいかしら? いいお肉が入ったしすぐできるけど?」




「お、それ2人分よろしくね!」




「それじゃ少しだけ待っててくださいね」




 ラナさんは再び厨房に戻っていったが、その際にちらりと私の顔を見て首をかしげた。おそらく無言でいるパララさんを指しているのだろう。私も話かけたいがなんと切り出していいかわからない。




 ただ、店の近くにいたとなると、なにかを伝えに来たのは間違いない。雰囲気から良い報告とは到底思えないが、尋ねないわけにもいかなかった。




「あの……パララさん、先日のギルドの件はどうなりましたか?」




 単刀直入に聞いてみた。パララさんは下を向いたまま黙っている。カレンさんは不思議そうな顔をして私とパララさんを交互に見ていた。




「あ、あのっ、わっわ私……」




「んースガぁ、パララちゃんなんかあったのかい? ひょっとして私、外した方がいい?」




 カレンさんにそう聞かれてなんと答えようか考えていると、パララさんがそのまま話始めた。




「ごっごごめんなさい! あの…えと…まだ正式ではないですが、魔法ギルドに所属ができそうです……。ごっご心配おかけしました!」




 意外な返答だった。表情から良くないことがあったのでは――、と察していたが、杞憂だったのか。




「そっそそれに…ちっ仲介料も払わないでよくなりまして……」




「いいえ、とんでもない。こちらこそ不安にさせてしまって申し訳なかったです」

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