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幸福の花は静かに笑う  作者: 武尾 さぬき
第2章 利害関係者(ステークホルダー)
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第5話 悪意の火種(前)-2

「それはよかったですね。パララさんの魔法使いとしての技量が評価されたのでしょうか」




「えっえ…と、そそれが……ですね。仕事探しで私が出入りしている案内所の近くで声をかけられまして……、仲介料が必要なのですが、『やどりき』に伝手のあるとかなんとか――」




 話を聞いていると、なにか胡散臭い気配を感じた。特に「仲介料」というワードが私の中で引っかかる。




「ラナさん……。もしわかればなのですが、その『やどりき』というギルドはそういった人材の募集を行っているところなのでしょうか?」




 ラナさんは左手の人差し指を唇に押し当てながら少しの間、考えに耽るような表情をしていた。




「うーん……。ボクもそこまで詳しいわけではないのですが、規模の大きいギルドはなにかしらの入団試験が設けられているのがほとんどです。組織上層の血縁や友人でも容易に入ることはできないと聞いています。逆に言うと、それゆえに組織としての品格が保たれているともいえますね?」




「なるほど……。パララさん、ちなみにその仲介料はいくら必要なんでしょうか?」




「えっ…と、そそそれは…、その――」




 パララさんは下を向いて答えに窮している。かなり高額な要求をされたのではないかと察する。




「パララさん、いくら必要と言われたのか教えてくれませんか? ボクもその話、少し気になります」





「さ…30,000ゴールドです」





「さっ、さんまん!?」




「さっさ…最初はもっと高かったんです……。けど、あんまり高い額は、はっ払えないので諦めようと思ったら、声をかけてくれた人が値段の交渉をしてくれるというので、いくらなら払えるかと言われて――」




 パララさんが今捻出できるギリギリの額が30,000ゴールドということか。




「『やどりき』に所属できたら安定してお給金も入ると思うので、ちょっと無理してでも払えば……、あとからの収入ですぐに取り戻せると思って……、その――」





「パララさん、その仲介料はもうお支払いされたのですか?」





 ラナさんがいつになく厳しい顔つきで尋ねている。




「いっ…いいえ! 皆さんにご報告したあとにおっお支払いに行こうとかと思ってました」




 ラナさんはパララさんの目を見ながらゆっくりと話し始めた。




「パララさん……、ボクの間違いだったらごめんなさい。ですが、その話……、少し怪しいと思うんです」




 ラナさんが先に言ってくれて助かった。私もまったく同じ意見だったからだ。




「あっ、怪しいというと……、『やどりき』に入れるというのは嘘ということですか?」




 パララさんは不安そうな顔で尋ねている。ここに来た時の表情を思い出すといたたまれない気持ちになってきた。




「嘘、とまだ決まったわけではありませんが、その可能性があるということです。そのお話、少し慎重になったほうがいいかと思います」




「そっ、そんな……、せっかく正式に魔法ギルドに所属できると思っていたのに……」




「パララさん、まだその話が嘘と決まったわけではありません。お話を持ち掛けてきた人から詳しく話を聞けそうでしょうか?」




「ええ…と、はっはい! 詳しく聞いてみます!」




「そうしてください。ボクもスガさんもパララさんが魔法ギルドに所属できたらどんなにいいかと思っています。ですが……、そのお話がよくないことにつながっていないかと心配なのです」




「はっは、はい……、わかります。ラナさんとユタタさんが心配してくれていることすごくわかります。ありがとうございます」




「もし、これからそのお話を聞きに行く予定でしたら私も付き添いましょうか? 仕事柄、契約関係の話には慣れておりますから」




「いっい、いいえ! そこまでしてもらわなくても大丈夫です! 自分できちんとお話を聞いてきます!」





 見た目は幼く見えるとはいえ、彼女も立派に成人している。あまり世話を焼き過ぎるのはかえってお節介かもしれない。




「そうですか。なにか不安なことや怪しいと感じた場合は必ず相談してください」




「あっありがとうございます! 先にここに立ち寄ってよかったです。自分で見聞きしてしっかり見極めてきます!」




 そう言うとパララさんは大きく一礼をして、足早に酒場を出て行ってしまった。





「――大丈夫でしょうか、本当に『やどりき』に所属できるなら喜ばしいのですが……、心配です」




 ラナさんは私に話しかけるでもなく、独り言のようにパララさんの出ていった酒場の出口を見つめながらそう言った。もし今の話が真実なら、喜んでいるパララさんの気持ちに水を差してしまったことになる。申し訳ないような気持ちが心に残った。

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