第1話 薬草の販売-6
酒場に帰るとラナさんは笑顔で、お使いありがとうございました、と言ってくれた。一方で、仕込みをしていたブルードさんから「どこまで行ってたんだ? 遅いじゃないか」と軽く怒られてしまった。
今日の酒場の仕事もつつがなく終わった。カレンさんはいつも通りやってきて大酒を飲んでいた。街で会った時のやりとりでわずかな気まずさもあったが、店ではいつも通りだった。
豪快な人ではあるが、若い女性である。あまり近い距離に男が踏み込んでくるのは抵抗があったのかもしれない。
店の後片付けを終わらせた後、私は部屋で物思いにふけっていた。この部屋は酒場の離れで、以前はラナさんのお父さんの書斎だったらしい。お父さんが亡くなってから身辺の整理をし、空いた部屋を倉庫代わりに使っていたそうだが、そこに私が現れ、改めて部屋を整えてくれたのだ。
『ここにしまっているものがたくさんありますから、たまに勝手に入ってしまうかもしれません。それでもよければ貸してあげますよ?』
ここを貸してくれた時のラナさんの言葉が頭を過った。
この世界にきたばかりで右も左もわからず寝床もない私には願ってもない話だった。そのお父さんが使っていたもので簡単な机や椅子、ベッドなどまで準備してくれた。知らない世界で早々に出会ったのが天使のような人で救われた。
ベッドに横たわりながら薬草を売る方法について考えてみた。普通に売り歩く方法でも多少は減らせるかもしれない。だが、100個も売れないうちに鮮度が悪くなっていくだろう。
なにか方法はないだろうか。
特にいいアイデアが浮かばないまま眠気に負けてしまった。
翌日、外からの心地よい風で目を覚ました。窓を半分開けたままにして寝落ちしてしまったようだ。防犯上よくない。それに羽虫が入って咬まれたりもする。こっちの世界でも蚊と同じような虫がいることを最近知った。
あちこち咬まれているのではないか、と思いながら、不思議とどこにも痒さを感じなかった。腕や足をいろいろ見てみたがどうやら刺された形跡はない。
その時、以前に軽い怪我をしてしまった自分の膝に目をやった。ドジをして転んで負った怪我だ。
昨日の夜、ここに薬草をすりつぶしたものを塗ったのだ。せっかくなので効果を試そう、と自分の傷に使ってみたのだ。
ひょっとして虫よけ効果があるのか……?
これは使えるかもしれない。




