第4話 花の闇(前)-2
いつも特に行先は決めていない。この辺りの地理を覚えるのも目的のひとつとしているので、外に出る時はいつも違う道を歩くようにしている。
さて、今日はどの辺りに向かおうか……。最寄りの駅の周りはお店が多く、人の往来もある。座って休めるところもあるので一旦はそこまで行くと決めた。
駅前に着くと、情報誌の売り場が目に付いた。いわゆる新聞に近いものだ。酒場でも情報誌は置いてあり、こちらの世界を知るのに非常に役立っている。しかし、今日の分にはまだ目を通していなかった。
一部買い、駅前の広場にあるベンチに腰かけて目を通してみた。早速気になる記事が目に飛び込んでくる。例の切り裂き魔の事件についてまとめた記事だった。
最近この話題をよく耳にする。事件のあった場所がこの近辺なのだ。以前にカレンさんから話を聞いたが、約半年前に最初の事件は起こっているようだ。この時の被害者は亡くなっている。夜中の時間帯に起こったようだが、被害者は王国騎士団の人らしい。
騎士団は、入団試験のハードルが非常に高く、狭き門をくぐり抜けた精鋭の集まりと聞いていた。腕に覚えがある人でも不意をつかれるとどうにもならないものなのだろうか。
この事件以降、夜中に衣服や持ち物が切り裂かれる事件が続発しているようだ。最初の事件以降、亡くなった人や怪我をした人はいない、と記事には書かれている。
被害者からの目撃証言では、犯人は黒いローブを着ていて顔どころか性別すら不明。背丈はそれほど高くなかったという意見で共通しているようだ。男性の身長でも背の高い女性でもあり得るようで、誰かを特定する手がかりとしては弱いようだ。
逃げ足が非常に速かったという証言もあり、犯人は男性、という見方が一応は有力らしい。
殺人もさることながら、その後の事件は一体なにが目的なのだろうか。衣服や持ち物に傷をつけてなにか意味があるのか……。いろいろな考えを巡らせながら紙面を読み進めていた。
「スぅーガっ!」
「うわっ!」
急に声をかけられびっくりしてしまった。顔を上げるとカレンさんがケラケラ笑いながら立っている。
「そんなに驚くこともないだろう? 笑っちゃうねぇ」
驚きと焦りと恥ずかしさが入り混じって変な汗が流れてきた。動悸が激しくなっている。
「す、すみません……、ちょっと情報誌に夢中になって気付きませんでした」
「ふぅん、なにかおもしろい記事でもあったのかい?」
カレンさんが私の情報誌を横から覗き見る。そして切り裂き魔の記事を見て目を細めた。
「――この記事かい? それなら話が早いね。これのことでスガに話があってきたんだ」
「切り裂き魔の事件の話ですか……」
以前、酒場で切り裂き魔の事件について、私が衛兵団に目をつけられている、と忠告をくれた。そこからなにか進展があったのだろうか。




