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幸福の花は静かに笑う  作者: 武尾 さぬき
第1章 異世界営業
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第3話 魔法使いの挑戦(後)-10

 昨日の夜は寝つきが悪かった。




 カレンさんとの話が頭の片隅にずっと残っていたからだろう。思えば、買い物帰りに公園に寄った日、衛兵に声をかけられたのは偶然ではなかったのかもしれない。そう思うと、どこかから監視されているような気分になる。気になって、窓の外に目をやった。




 しかし、よくよく考えれば私がなにかをしでかした訳ではない。仮に監視されているとしても、後ろめたいことはなにもないわけだ。気にせず過ごせばいい。私自身よりも周りに迷惑がかからないかが心配だ。





 朝は店の前の掃除から1日が始まる。眠い目をこすりながら箒をもって外へ出た。青い空がよく見えるいい天気だったが、風は少し肌寒い。ぼんやり空を見上げながら欠伸をしていると、声をかけられた。




「おはようございます。大きな欠伸ですね?」




 くすくす笑いながらラナさんが外の植木に水をやっていた。




「おはようございます。いや、お恥ずかしい……。昨日は寝つきが悪くて――」




「そんな日もありますね。あとで濃いめのコーヒーを淹れましょうか?」




「助かります。掃除を終わらせたらいただきます」




 普段通り話しながら目だけで周囲を伺ってみる。特に監視されている気配はない。私の考えすぎだろうか? もっとも私に気付かれるようでは衛兵のスキルを問い直す必要がありそうだが……。




「パララさんの面接試験は明日ですね。今日はどんな練習をする予定なのですか?」




 しゃがんで水やりをしているラナさんから上目づかいで話しかけられた。少しドキリとする視線だ。




「き…今日はこれまでのおさらいにとどめようと思います。同じことを何度も繰り返して定着させるのが大事ですから」




 身に付けたことを考えながら1つずつ行っていくのはそれほど難しくない。




 ただ、いわゆる「本番」……、今回でいうところの面接試験で冷静にその「考え」を巡らすのが難しい。




 慣れない環境や人前に出ると緊張で思考は停止する。そういった時に、練習したことが定着しているかどうかがカギとなる。しっかりとそれができていれば、思考停止に陥っても、無意識に反復したことができたりするものだ。





 もっともこのレベルに到達するまでには相当な回数を繰り返す必要がある。今はできる範囲でやっていくしかない。仮にそこまで定着させれなくても、繰り返し練習をした、という経験が自信となって力となってくれるはずだ。




 こんな内容をラナさんに長々と説明してしまった。朝から理屈っぽい話をして退屈させてしまったかと思ったが、ラナさんは頷きながら楽しそうに聞いている。




「スガさんは、本当に依頼主さんを想って仕事をなさっていますね。ボクも見習わないといけないところがたくさんあります」




「いいえ、それほどではありませんよ。自分にできる精一杯を尽くすのが礼儀だと思っているだけです」




「まだここに来てそれほど経っていませんが、ブルードさんや常連の方からも評判がいいですよ。きっとその姿勢の賜物ですね?」




 ラナさんはそう言うと笑顔のままお店の中へ入っていった。妙に褒められたせいか、首の後ろあたりがくすぐったく感じる。





 ラナさんの淹れてくれたコーヒーは本当に濃いめでほどよく目が冴えた。彼女もそれを飲みながら仕事の依頼書の確認をしていた。私も一息ついて、お昼からの開店準備をしようとすると店の扉の前に人影が見えた。なんとこの早い時間からパララさんが来ていたのだ。




「おっおはようございます! 今日もよろしくお願いします!」




「おはようございます。昨日、カレンはちゃんと送って帰ってくれましたか?」




 ラナさんは私の背中から顔を出して問いかけた。




「はっ、はい! 宿の最寄りの駅まで送ってくれました。道中いろいろお話もできました。とても楽しい方ですね、カレンさん」




「ふふ……、そうですね。ここでは大酒飲みの常連さんですけどね」




「そっ、そんなに飲まれる方なんですか?」




「そうですね……。この店の男性客と飲み比べをよくしてますが、いつもカレンさんのひとり勝ちですから」




 私は彼女のお店での様子を話しながら、今日行う面接の練習についてパララさんに伝えた。彼女は今日も夜まで働く気でいたので、それはやめておくように言った。




「コンディションも大事にしないといけません。せっかく練習を積み重ねても万が一、明日の体調がすぐれないと台無しになりますから」




「わっわ、私にそんなに疲れてもいませんし大丈夫ですよ」




「パララさん……、気持ちはわかりますが、しっかりお休みするのもとても大事ですから。ここはスガさんの言うとおりにしましょう」




 ラナさんも話に加わってくれてパララさんはなんとか納得してくれた。




「限られた時間で最善を尽くす。必要なときはしっかり休む。仕事をするうえでも重要なことですからね」




 必要なときはしっかり休む、自分で言いながらなにか引っかかる言葉だった。




「……わかりました。わがままを言ってすみません」




「いいえ、そのがんばりたい気持ちは伝わります。それを面接でしっかりと相手に伝えられるようにすればきっとよい結果に繋がります」





 こうして今日は、先日も実施したよくありそうな質問に答える練習を行った。

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