第3話 魔法使いの挑戦(後)-5
「では次の質問です。今、目の前でボクが巨大なまものに襲われようとしています。その現場に居合わせたあなたはどうしますか?」
この質問は私が考えたのではない。ラナさんが即興で考えたのか?
しかし、なかなか興味深い質問だった。パララさんは火属性の魔法を得意としている。この属性は、シンプルに相手を攻撃するのに適した魔法が多いという。やはり高火力の魔法でまものを退けるのが得策なのだろうか?
「えっと……、まずはフレイムカーテンを張って、ラナさんとまものを分断します。その後、カーテンの前まで行ってラナさんには私の背中に隠れてもらいます。それからまものと距離をとりながら、攻撃をしていきます」
「なるほど。素晴らしいですね! 焦っていきなり高位魔法を詠唱しようとする魔法使いも多いそうですが、それではボクを巻き込んでしまう可能性がありますからね。一旦、安全確保をした後に攻撃へ移る戦略は見事です」
なんというか、パララさんといいラナさんといい、思ったよりも戦略的な話が出てきてびっくりしてしまった。そしてこういう話は意外とすんなりとできるパララさんへの驚きがより大きかった。
「スガさん、ここまでの質疑を振り返りつつ一息入れませんか? まだ少ししか話していませんが思った以上に疲れますね?」
ラナさんはおそらく自身の疲労よりパララさんの疲労を気遣ってこの提案をしたのだと思う。
「ええ、そうしましょう。それに内容はとてもよかったと思います。長所を話せなかったところだけは課題ですね」
「はっはい……、ごめんなさい。私、長所なんてあるのかな……」
「謝ることではありません。それに長所はあります」
「そっそんな……、私の長所ってなんなんでしょう?」
「誰しもに言えることは、長所と短所は表裏一体ということです。つまり、パララさんが自分の短所として上げた内容は見方によって長所になります」
「ひっ…人と話すのが苦手なことがですか?」
「そうですね。では、なぜ人と話すのが苦手なのか……、これは私の予想ですが、なにかを言った先を考えていませんか?」
「そっそれは……、あります」
「それはパララさんの思慮深さゆえです。自分の発言に対してその影響と責任を考えるがゆえに、言葉に詰まってしまっているんです。裏を返せば、そこまで後先を考えられる人でなければそうはならないです」
「そっそう……なんでしょう……、か?」
「そうです! あとは細かいアドバイスをしますと、面接官の顔を凝視する必要はありません。――かと言って俯いたりよそ向いてしまうのもよくないでしょう。相手の首元あたりを見るようにするとよいと思います」
「まっすぐ見られると面接官も目のやり場に困りますから」
ラナさんは少し照れたような顔をしてそう言った。
「そうですね。人の首元あたりを見て話せば目が合うことはないので緊張も幾分か楽になります。相手からはしっかり顔を見て話しているように感じるので失礼にもあたりません」
「そっそうなんですね……。次は意識してみます」
「はい。ところでパララさんの尊敬する『ローゼンバーグ卿』の名前はどこへ出しても通じるものなのでしょうか?」
「きっと通じると思います! もし通じなければどういう方かの説明も私がしますから!」
やはりパララさんはこのローゼンバーグ卿、という人物の話になると明らかに熱量が変わる。
「わかりました。では、休憩を挟んでもう少し練習しましょう。どんな質問がくるかわかりませんので、お手本のような回答を覚える必要はありません。その場で考えたことをしっかりまとめて口に出して伝える、これに慣れるのが大事です。こればっかりは繰り返していくしかありません」
「はっはい! ですが、お店の準備もあるのにこんなに私に付き合ってもらって申し訳ないです……」
「私はパララさんから仕事を受けた身です。気にすることはありません」
「元はといえばボクがスガさんの力を借りようとしたわけですから、気にしないでください。それに面接の練習なんてしたことないのでボクは楽しんでますよ?」
この日は酒場の準備に忙しくなるギリギリの時間まで面接の練習を繰り返した。反復していくうちに、私とラナさんに限ってかもしれないが、パララさんはかなり自然に話ができるようになってきている。
実際の面接で緊張をするのは仕方がない。こればっかりはパララさんに限っての話でもないはずだ。
ただ、そもそもこの世界で就職面接の練習をすることがあるのだろうか。もし、それ自体が馴染みないものなら、この練習だけでもアドバンテージになる。私はそれに期待していた。




