第3話 魔法使いの挑戦(前)-6
パララさんは酒場の一番奥の席に座っていた。先日ここに来た時より表情は暗い。私の顔を見て軽く会釈をしたあとすぐに俯いてしまった。
ラナさんから事情を聞いてみると、どうやら仕事で失敗があったとかではないようだ。私はてっきりなにか致命的なミスをして怒られたとかだと思い込んでいた。しかし、仕事自体は問題なく終わっているようなのだ。
「先ほどはラナさんも謝っているように見えたのですが、仕事がうまくいったのでしたら一体なにがあったのでしょう?」
ラナさんは言葉を選ぶようにしてゆっくりと話し始めた。
「それがですね……。先ほどいらしていたのは依頼主の方だったのですが、どうやらパララさんの能力について苦言を呈しにいらしたようでして……」
「能力……、というと魔法のことですか?」
「ええ、そうですね。ただ、実際の能力が問題ではないと思うんです」
「――といいますと?」
まだ、話がいまひとつ見えてこない。ラナさんは依頼主の人が言っていた内容を要約して話してくれた。
事は今回パララさんが受けた仕事の道中であったようだ。同じ仕事を受けてやってきた2人の人間がいた。隣国までの道中、盗賊やまものに襲われたときに備えてお互いのできることを話し、連携をとっていくようになったらしい。
ここで問題が起こった。
曰くパララさんは、魔法名を提示された上で「この魔法は扱えますか?」という問いに対して「自信ありませんが」、「できなくはないと思います」、「いざという時にできるかわかりません」などなど……、すべてが曖昧な返答だったらしい。
共に護衛の仕事に就いた2人はパララさんが本当に魔法使いとしてスキルがあるのか疑い出したそうだ。実際、名門魔法学校を卒業しているのだから、たしかな能力はあるのだろう。ただ、本人の自信のない返答に依頼主も報酬目当てで経歴を偽ってはいないかと疑い出したそうだ。
道中、何者かに襲われることはなく、仕事は無事に終わった。それゆえに彼女がその力を発揮することもなかった。試し撃ちで魔法を披露するのも彼女は躊躇ったという。依頼主がパララさんを連れてここにやってきたのは、彼女の経歴がたしかなものかを確認しにきたのだ。
「なるほど……。大体の話はわかりました」
「セントラルの卒業認定証は、特殊な魔術によって日に当たるとフクロウを模した文様が浮かび上がるようになっているんです。ですから偽造なんて絶対にできません。そしてあそこの卒業は並大抵の魔法使いではできません。パララさんが相応の能力の持ち主なのは間違いないはずです」
学校の卒業証書に、お札の透かしを入れてあるようなものだろうか。仕事柄ラナさんはこうしたことに詳しいのだろう。ただ、そうなると問題はパララさんの受け答えという話になる。
「あっあ…あの本当にごめんなさい。私、せっかくお仕事を紹介してもらったのに…こちらにまで迷惑をかけてしまうなんて……」




